【抗肥満薬】 新薬「ゼップバウンド」 は5ヶ月で 12.8kg 減量する! 丨 SURMOUNT 1 試験

ゼップバウンド は 2023年 11月 に米国で認可された抗肥満薬です、近いうちに日本でも認可されると思います。1年で 15kg 減量しますが、やめるとリバウンドします。副作用は 80% で、主に吐気や下痢などです。安全性について特に詳しく検討します。

ポイント

  • ゼップバウンド は 5ヶ月 で 12.8 kg 減量
  • さらに1年続けると 8 kg 減量
  • 副作用は 80%、主に消化器症状
  • やめるとリバウンドする

はじめに

新しい肥満の治療薬はいくつ出るのだろうか?

前回まで 2024年 に発売された抗肥満薬のウゴービを紹介した。今日は ウゴービ の 強力 な ライバル の、「ゼップバウンド」を取り上げる。

ウゴービのライバル

ゼップバウンド は ウゴービ と同じ働きをする薬で、GLP-1受容体という場所に作用して脳の食欲を抑制する。

ゼップバウンドはそれに加えて、GIP受容体という所にも作用する。

Zepbound と Mounjaro の検索数.png (930×630)

ゼップバウンド の 一般名は チルゼパチド といい、先に「マンジャロ」という名前で糖尿病の薬として認可されていた。糖尿病薬から抗肥満薬に適応を拡大したのは、ウゴービ と同じ流れになる。

今日は ゼップバウンド の効果を示した論文を紹介する。

肥満に対する週1回のチルゼパチド治療

Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity

Ania M. Jastreboff, M.D. et al.

N Engl J Med 2022; 387:205-216

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2206038?url_ver=Z39.88-2003%F0%9D%94%AFid=ori:rid:crossref.org%F0%9D%94%AFdat=cr_pub%20%200pubmed
Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity | NEJM

Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity | NEJM

Obesity is a chronic disease that results in substantial global morbidity and mortality. The efficacy and safety of tirzepatide, a novel glucose-dependent insulinotropic polypeptide and glucagon-li...

目的

肥満患者に対するチルゼパチドの効果と安全性を証明する

対象

食事療法での減量を、一度は失敗したことのある 2,539人

  • BMI 30以上 または
  • BMI 27以上 かつ 下記のいずれかを有する人
    • 高血圧
    • 脂質異常症
    • 睡眠時無呼吸症候群
    • 心血管疾患

除外基準:糖尿病、精神疾患など

方法

全ての対象者は食事療法、運動療法を併用

偽薬:チルゼパチド 5mg:10mg:15mg を投与する群に 1:1:1:1 で割り付け

チルゼパチドは 2.5mg で開始し、4週間ごとに 2.5mg ずつ増量

72週間投与を継続し、その後 4週間 副作用を観察

一次評価項目

治療開始時から72週間目までの体重変化率

72週間目に 5%以上 の体重減少を達成した人の割合

二次評価項目

10%以上、15%以上、20%以上 の体重減少を達成した人の割合

体重、腹囲、血圧、インスリン、脂質、SF-36スコア、急性型の身体機能スコア

225人の参加者に対して、DXEA法で体脂肪率の変化を測定

結果

試験期間は 2019年12月 ~ 2022年4月

治療完了率は 86.0 %

参加者の特徴

特徴
白人 70.6 %
アジア人 10.9 %
女性 67.5 %
平均年齢 44.9歳
数値
体重 104.8kg
BMI 38.0
腹囲 114.1 cm
論文の表 をもとに作成

日本人の参加者は 4.9 %

参加者 の 平均体重 104.8 kg、BMI 38.0

72週間後の変化

チルゼパチドの臨床試験の論文の図、偽薬群とチルゼパチド3群の体重変化の経過.PNG (844×613)
出典:
N Engl J Med 2022; 387:205-216
体重(%) 体重(kg) 5%以上の減量 腹囲
偽薬群 -3.1 % -2.4 kg 35 % -4.0 cm
5mg 群 -15.0 % -16.1 kg 85.1 % -14.0 cm
10mg 群 -19.5 % -21.4 kg 88.9 % -17.7 cm
15mg 群 -20.9 % -22.5 kg 90.9 % -18.5 cm
論文の表 をもとに作成

5mg 群 で体重は 15 % 減少
10mg 群 と 15 mg 群では 約 20% 減少

体脂肪量は 33.9 % 減少

20週時点での 偽薬 と チルゼパチド 投与群全体 との比較

偽薬群 チルゼパチド群
20週時点での体重変化 -2.7 kg -12.8 kg
収縮期血圧 -1.0 -7.2
LDLコレステロール -1.7 -5.8
体脂肪の減少率 -8.2 % -33.9 %
論文の表 をもとに作成

20週目の時点で、チルゼパチド群は偽薬群より有意に体重が減少

腹囲、血圧、インスリン、脂質の値も偽薬群より改善

有害事象

偽薬群 5mg 群 10mg 群 15mg 群
有害事象 72.0 % 81.0 % 81.8 % 78.9 %
重篤な有害事象 6.8 % 6.3 % 6.9 % 5.1 %
治療中止率 2.6 & 4.3 % 7.1 % 6.2 %
-- -- -- -- --
吐気 9.5 % 24.6 % 33.3 % 31.0 %
下痢 7.3 % 18.7 % 21.2 % 23.0 %
便秘 5.8 % 16.8 % 17.1% 11.7 %
嘔吐 1.7 % 8.3 % 10.7 % 12.2 %
食欲減退 3.3 % 9.4 % 11.5 % 8.6 %
-- -- -- -- --
がん 1.1 % 1.4 % 0.5 % 0.8 %
うつ病 または
自殺念慮
0 0.2 % 0.3 % 0.3 %
死亡 4例 4例 2例 1例
論文の表 をもとに作成

消化器に関連した副作用はチルゼパチド群の方が多かった

主なものは吐気、下痢、嘔吐など

副作用の多くは 軽度 ~ 中等度 で、ほとんどが薬剤の増量時に起こっていた

結論

週1回の チルゼパチド による治療は、肥満の成人の体重減少に有効

筆者の意見

ウゴービと同等以上の効果

ゼップバウンドの高用量では、72週間後 の体重減少は 20 kg を超える。一方で、前に紹介したウゴービは 15kg 程度になる。

書き手は両方ともとても効果的な薬剤なので、優劣を比較する意味はあまり無いと考えている。複数の用量が設定されているので、十分な効果が得られたら減量すれば良い。

2023年11月に発表された長期投与試験(SURMOUNT-4 試験)で、ゼップバウンド も ウゴービ と同様に 薬剤中止後にリバウンドする ことが証明されている。

精神障害の副作用は…?

今回の試験でも、ウゴービ と同様に開始時に精神疾患を持つ人を対象から除外している。

今回の試験では、精神障害の発症率は 0 ~ 0.3 % 程度で極めて少ない。これは他の臨床試験と違って、特殊なカウントをしていることによる。

今回の試験では、うつ病または自殺企図の兆候が認められた人に対して、自殺危険度のスコアリング(C-SSRS)を行い、危険なため試験を中断した人 のみカウントしている。

実際の該当者は下の通りになる。

偽薬群 5mg 10mg 15mg
試験中止者 0 1 人 2 人 2 人
論文の表 をもとに作成

該当者は少ないものの、試験開始時に うつ病 と 自殺企図の可能性のある人 は除外しているので、少なくとも試験開始後に発症した人になる。

その他の精神障害について論文には記載されておらず、ウゴービ はもちろん過去の薬剤との比較もできない。

現在まで行われた SURMOUNT 1 ~ 4 のいずれの試験も同じカウント方法なので、ゼップバウンド は精神面での安全性は何ともいえない と書き手は捉えている。

脈が早くなる

ウゴービ と ゼップバウンド はともに GLP-1作動薬 という薬で、脈が早くなる副作用がある。日本人で特に報告が多い。

参考:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構  マンジャロ審議結果報告書 Page 78

これは ゼップバウンド の 日本人を対象とした用量設定試験 でも認められている。

肥満ではもともと心臓に負荷がかかっているので、脈が早くなるとさらに心臓に負担がかかる悪影響が懸念される。

今後 ゼップバウンド でも心血管病を対象にした大規模試験が行われると思うので、その結果を見守る必要がある。

次回は、抗肥満薬の進歩によって変わりつつある肥満の未来について検討する。

次の記事 前の記事