【肺炎球菌ワクチン】 ニューモバックス、プレベナー、バクニュバンス の比較

2024年4月 から、肺炎球菌ワクチンの定期接種が変更になりました。現在、無料で接種できるのは、65歳 の人と 5歳未満 の小児です。肺炎球菌ワクチンには3種類あります。ニューモバックス、プレベナー13、バクニュバンスという名前です。近い将来、プレベナー13 は プレベナー20 に置き換わります。今日はそれぞれの特徴を紹介します。

ポイント

  • ニューモバックス は 高齢者用
  • プレベナー と バクニュバンス は誰でも打てる
  • プレベナー20 > バクニュバンス > プレベナー13

はじめに

肺炎球菌ワクチン の違いは何だろうか?

肺炎球菌は、肺炎や中耳炎、髄膜炎などの原因になる。

ワクチンは、肺炎球菌の感染症に対して高い予防効果がある。

肺炎球菌ワクチン は 3 + 1 種類

2024年4月 の時点で、日本で使用できる肺炎球菌ワクチンは3種類ある。さらに、この8月にもう1種類追加される。

承認 価数 小児 高齢者
ニューモバックス 1988 年 23 価 定期接種(65歳)
プレベナー 13 2014 年 13 価
バクニュバンス 2022 年 15 価 定期接種(計4回)
プレベナー 20 2024 年 20 価 2024年 8月 おそらく 2024年内

肺炎球菌には多くの型があり、 約 100種類 に分類される。ワクチン価数は、100種類 のうちどれだけの型に効果があるのかを示している。

肺炎球菌は、小児と高齢者の感染症

肺炎球菌感染症の年齢別届け出数.PNG (1367×810)
出典:国立感染症研究所ホームページ

肺炎球菌感染症は、乳幼児と高齢者に多い。肺炎球菌ワクチンは、特徴に応じて接種の対象が決まっている。

ニューモバックス

ニューモバックスは古くからあるワクチンで、2014年から高齢者の定期接種になっている。

ニューモバックスの効果は、以前の記事で紹介している。

2024年4月以降、定期接種の対象は 65歳 の人 のみになっている。

ニューモバックスは価数が多いので、幅広い肺炎球菌に効果がある。しかし免疫をつける効果が弱いので、免疫がまだ発達していない 乳幼児では十分に効果を発揮しない

プレベナー13

小児に対する欠点を克服して登場したのが プレベナー 13 で、抗原をジフテリア毒素と結合させることで強い効果が得られるようになっている。

2013年から乳幼児に対して定期接種 になり、計4回の接種で 約 80% の感染症を予防している。

バクニュバンス

バクニュバンス は プレベナー13 より価数が増えている。プレベナー13 より 7% 広い効果が期待できる。

小児に対するワクチンの効果をさらに上げるため、2024年4月 から小児の定期接種が プレベナー13 から バクニュバンス に変更になった。

プレベナー20

プレベナー20 は プレベナー13 の改良型で、さらに価数が増えている。

プレベナー13 を上回る効果が報告 されていて、ニューモバックス と バクニュバンス も上回ることが期待されている。

今日は プレベナー13 について

一番新しい バクニュバンス と プレベナー20 には、大規模な臨床試験のデータがない。

今日は、高齢者に対する プレベナー13 の効果を紹介する。

成人の肺炎球菌性肺炎に対する多糖類結合体ワクチンの効果

Polysaccharide Conjugate Vaccine against Pneumococcal Pneumonia in Adults

Marc J.M. Bonten, M.D, et al.

N Engl J Med. 2015 Mar 19;372(12):1114-25.

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1408544?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov
Polysaccharide Conjugate Vaccine against Pneumococcal Pneumonia in Adults | NEJM

Polysaccharide Conjugate Vaccine against Pneumococcal Pneumonia in Adults | NEJM

Pneumococcal polysaccharide conjugate vaccines prevent pneumococcal disease in infants, but their efficacy against pneumococcal community-acquired pneumonia in adults 65 years of age or older is un...

オランダで行われた、高齢者に対する プレベナー13 の効果を確かめる試験(CAPITA試験)

背景

プレベナー13 は、乳幼児の肺炎球菌感染症を予防しますが、成人の肺炎に対する有効性は不明です

対象

オランダに在住の 65歳以上 の 高齢者 84,496人

肺炎球菌ワクチンの接種を受けたことのある人は除外

方法

ワクチン群と偽薬群にランダムに1:1に割り付け

2,011人 を副反応を調べる追加試験に割り当て

一次評価項目

肺炎球菌肺炎に対する予防効果

二次評価項目

ワクチン型の肺炎球菌肺炎対する予防効果

探索的評価項目

全ての肺炎の発症・侵襲性肺炎球菌感染症(重症の感染症)など

結果

試験期間は 2008年9月 ~ 2013年8月

追跡期間の平均は 3.97年

離脱率はワクチン群 12.4 %、偽薬群で12.6 %

離脱の主な原因は死亡(各群 7.1%)と 追跡不能(ワクチン群 4.8%、偽薬群 5.1%)

参加者の背景

数値
男性 55.9 %
白人 98.5 %
年齢 72.8 歳
喫煙者 12.3 %
年齢 割合
75 歳未満 69.7 %
75~85 歳 27.8 %
85 歳以上 3.5 %
論文の表 をもとに作成

両群の参加者の背景に差はなかった

ワクチンの効果

肺炎の発症者数のグラフ.png (800×1120)
ワクチン群 偽薬群 予防効果 有意差
全ての肺炎 747 人 787 人 5.1 % なし
肺炎球菌による肺炎 135 人 174 人 22.4 % あり
ワクチン型の
肺炎球菌による肺炎
66 人 106 人 37.7 % あり
侵襲性肺炎球菌感染症 34 人 66 人 48.5 % あり
論文の表 をもとに作成

ワクチン は 肺炎球菌 による 肺炎 を 22.4 % 予防
ワクチン型 の 肺炎球菌 による 肺炎 を 37.7 % 予防
侵襲性肺炎球菌感染症 を 48.5 % 予防

全ての肺炎は有意差がなかった

有害事象

ワクチン群 偽薬群
有害事象 18.7 % 14.3 %
重篤な有害事象 7 % 6 %

軽度 ~ 中等度 の 有害事象 はワクチン群の方が多かった

重篤な有害事象は差がなかった

有害事象の内容

CAPITA試験、副反応の種類と頻度のグラフ.png (800×1120)
副反応 ワクチン群 偽薬群 有意差
接種部位の痛み 36.1 % 6.1 % あり
倦怠感 18.8 % 14.8 % あり
筋肉痛 18.4 % 8.4 % あり
頭痛 15.9 % 14.8 % なし
関節痛 7.4 % 5.4 % なし
論文の表 をもとに作成

ワクチン群で、接種部位の痛み・倦怠感・筋肉痛 などの副反応が多かった

結論

13価型肺炎球菌ワクチンは肺炎球菌による肺炎の予防に有効

全ての原因による肺炎は減少しなかった

筆者の意見

プレベナー13 と ニューモバックス の比較

今回の論文は、オランダ の大規模な臨床試験のデータになる。前回紹介した ニューモバックス の試験は日本で行われている。

ワクチンの効果を、前回紹介した ニューモバックス と比較してみる。

CAPITA試験の論文の図、ニューモバックス との比較 のグラフ.png (800×1120)
予防効果 プレベナー13 ニューモバックス
全ての肺炎 -- 45 %
肺炎球菌肺炎 22 % 64 %
侵襲性肺炎球菌感染 49 % --

高齢者の肺炎の予防効果は、ニューモバックス の方が高い。一方で、重症化の予防を証明したのは プレベナー13 のみになっている。

優劣はつけられない

高齢者と小児に対する定期接種が始まってから、病原となる肺炎球菌の型は大きく変化している。ワクチンの効果も変動していて、評価は定まっていない。

バクニュバンス と プレベナー20 は、大規模な臨床試験は行われていない。

少なくとも、高齢者では ニューモバックス が他の ワクチン に劣ることはない

肺炎球菌ワクチンは2回以上打ったほうが良いの?

今回の試験では、偽薬群の肺炎の発症率は4年で 1.9 % になっている。

日本では ニューモバックス の定期接種が行われているので、肺炎の発症率さらに低くなる。1%台前半まで下がると思うので、肺炎を過度に心配する必要はない。

基礎疾患がない場合は、追加接種は必要ない と書き手は考えている。

持病があるけれど…

持病があると肺炎の発症率は高くなる。2023年 に発表された資料の中で、肺炎を発症しやすい 基礎疾患 は以下のものが挙げられている。

基礎疾患 免疫不全状態
糖尿病
慢性心疾患
アルコール依存症
慢性肺疾患
慢性肝疾患

免疫抑制剤の使用
抗がん剤の使用
慢性腎臓病・透析
自己免疫疾患
無脾症
臓器移植後

持病があると肺炎が発症しやすく、また重症化もしやすいので、65歳未満であっても肺炎球菌ワクチンの接種が勧められる

どの ワクチン を打ったら良いの?

まず、定期接種のワクチンは決まっている。2024年4月 現在、小児は バクニュバンス、65歳 で ニューモバックス になっている。

承認 価数 小児 高齢者
ニューモバックス 1988 年 23 価 定期接種(65歳)
プレベナー 13 2014 年 13 価
バクニュバンス 2022 年 15 価 定期接種(計4回)
プレベナー 20 2024 年 20 価 2024年 8月 2024年内

任意接種では、2歳以上であれば全てのワクチンを選ぶことができる。

このうち、大規模な臨床試験が行われたのは ニューモバックス と プレベナー13 のみになるが、基本的には新しいものほど効果が期待できる。

書き手は以下の接種をすすめる。

基礎疾患がない場合

ニューモバックスの定期接種

基礎疾患がある場合

プレベナー20 (or バクニュバンス)+ ニューモバックス

どの順番で打ったら良いの?

2種類以上の ワクチン を接種する場合、他のワクチンを打ってから 1 ~ 4年 以内に ニューモバックス を接種 すると、ブースター効果が得られる。

65歳未満の人の最も効率の良い打ち方は、63歳頃 に プレベナー20 (or バクニュバンス)を打って、65歳 に ニューモバックス の定期接種を受ける方法になっている。

既にニューモバックスの定期接種を受けている場合は、いつ追加接種を受けても良い。

今後もっと良いワクチンは出てくるの?

今後、さらに価数を増やした肺炎球菌ワクチンが登場してくる。

現在 21価型肺炎球菌ワクチン、24価型肺炎球菌ワクチン の臨床試験も行われている。

肺炎球菌ワクチン 対応血清型一覧の表.gif (1581×1080)
10種類の肺炎球菌ワクチンの比較
出典:国立感染症研究所ホームページ

全く新しいタイプの 新規24価型肺炎球菌ワクチン(ASP3772)も試験中で、 ニューモバックス と プレベナー13 の双方を上回る良好な成績 が報告されている。

このように次々と良いワクチンが出てくるが、タイミングはいつまで待ってもきりがない。

肺炎球菌ワクチンの接種を検討している人は、近く承認される プレベナー20 まで待つのがベスト だと書き手は考えている。

肺炎球菌ワクチンのまとめ

  • 定期接種は受ける
  • 基礎疾患がある場合は、任意接種も受けた方が良い
  • もうすぐ プレベナー20 が発売される

以上が肺炎球菌ワクチンに対する書き手の意見になる。

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