【コレステロール】 高脂血症は男性の方が危ない! 丨 茨城健康調査

コレステロールと病気との関係には、性差があります。男性は LDLコレステロール が高いと心臓病のリスクが増えますが、女性はそうではありません。今回は茨城県の検診結果をもとにした、大規模な調査について紹介します。

ポイント

  • コレステロール は女性の方が高い
  • LDLコレステロールが高いと長生き
  • 男性は LDLコレステロールが上がると 心臓病 のリスクが増加

はじめに

コレステロールは、どのような病気と関連してるのだろうか?

前回は、スタチンがアメリカで、心臓病の予防に大きな効果をあげたことを紹介した。

一方で、日本では 冠動脈心疾患 が少なく、米国の結果をそのまま日本に当てはめることはできないことも紹介した。

これから日本人の病気を知るために、いくつか日本人の病気について見ていくことにする。

今回は、LDLコレステロール と心疾患の関係を調べた調査を紹介する。

日本人の LDLコレステロール の性差と、冠動脈心疾患 の死亡率との関係:茨木健康調査

Gender difference of association between LDL cholesterol concentrations and mortality from coronary heart disease amongst Japanese: the Ibaraki Prefectural Health Study

H. Noda, H. Iso, F. Irie, T. Sairenchi, E. Ohtaka, H. Ohta

J Intern Med. 2010 Jun;267(6):576-87.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2796.2009.02183.x
<em>Journal of Internal Medicine</em>  | Wiley Online Library

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Abstract. Noda H, Iso H, Irie F, Sairenchi T, Ohtaka E, Ohta H (Osaka University, Osaka, Japan; Harvard School of Public Health, Cambridge, MA, USA; Ibaraki Prefectural Office, Ibaraki; Dokkyo Medic...

目的

肥満のない一般人口で、LDLコレステロール が 冠動脈心疾患 のリスクを高めるか調査する

対象

  • 冠状動心疾患 や 脳卒中 の病歴のない、40~79歳 の 91,219人
  • 男性 30,802人 と 女性 60,417人

方法

  • 1993年の健康診断で、以下の項目を測定
  • 身長、体重、血圧、血糖値、血中脂質、降圧薬の有無、γ-GTP、喫煙、飲酒
  • 2003年までの県内の死亡診断書をすべて確認

結果

観察期間の中央値は 10.3年

男性295人(1%)、女性244人(0.4%)が冠動脈心疾患で死亡

LDLコレステロール の平均値は、男性 110.5、女性 123.9

性別と LDLコレステロール の分布

茨城健康調査、男性のLDLコレステロールの分布.png (1140×750) 茨城健康調査、女性のLDLコレステロールの分布.png (1140×750)
参加者のLDLコレステロールの分布
論文の表をもとに作成

女性は男性より、

  • 総コレステロール が高い
  • LDLコレステロールが高い
  • HDLコレステロールが高い

LDLコレステロール と 冠動脈心疾患 による死亡のリスク

茨城健康調査、男性のLDLコレステロールと脂冠動脈心疾患の相対危険度.png (1140×750) 茨城健康調査、女性のLDLコレステロールと脂冠動脈心疾患の相対危険度.png (1140×750)
LDLコレステロールと冠動脈心疾患の死亡の相対危険度
論文の表をもとに作成

LDLコレステロールが 140以上 の男性は、80未満 と比べて 冠動脈心疾患 の 死亡率 が2倍

LDLコレステロールが上昇すると、男性は 冠動脈心疾患 による死亡のリスクが直線的に増加

女性では関連は無かった
ただし、160 以上から増加し始める可能性があることを示唆

LDLコレステロール と 総死亡 のリスク

茨城健康調査、男性のLDLコレステロールと総死亡の相対危険度.png (1140×750) 茨城健康調査、女性のLDLコレステロールと総死亡の相対危険度.png (1140×750)
LDLコレステロールと死亡のリスク
論文の表をもとに作成

一方で、LDL コレステロールが高いと、男女ともにの死亡リスクが低かった

非HDLコレステロール と 総コレステロール は、男性では LDLコレステロール よりも弱い関連

女性では関連は無かった

結論

肥満の少ない集団では、男性は LDLコレステロール 高いと 冠動脈心疾患 による死亡リスクが増加するが、女性は関連していない

筆者の意見

研究の対象

まず今回の調査の対象は、脳卒中 や 冠動脈心疾患 のない、健康な人であることに気をつける必要がある。

脳卒中や心臓病の持病がある人は、今回の調査の結果は当てはまらない。

脳卒中や心臓病は、病気の再発のリスクがとても高い。従って、LDLコレステロール をしっかり下げる必要がある。

参考:脳卒中は、5年以内に 20% が再発する

持病のある人の再発予防については、また後の記事で紹介することにする。

女性はコレステロールが上がっていく

女性ホルモンは、コレステロールを低下させる作用がある。

若いうちは女性は男性よりコレステロールが低い。それに対して、閉経後の女性ではコレステロールは高くなる。

これは生理的な現象になる。

今までと同じ生活をしていても、食事を気をつけていても、コレステロールは上がっていく。

今回の調査は閉経後の女性が多い。従って、女性の方がコレステロール値が高くなっている。

LDLコレステロールが高いと長生き

今回の調査では、LDL コレステロールは高い方が長生きな結果になっている。何かと悪者にされる LDLコレステロール でも、健康な人では高くても大丈夫 なのである。

LDLコレステロール が高いほうが長生きな理由は、論文中で2つ考察されている。

まず、コレステロールは栄養状態を反映する。LDLコレステロールが極端に低い場合は、がんなどの病気で栄養状態が悪い可能性がある。

次に、LDLコレステロール が低いと、脳出血のリスクが上昇する。 これについては、次回の記事で紹介することにする。

検診とLDLコレステロール値

検診で LDLコレステロール が高くても、急に心配する必要は無い。女性は特にそうといえる。

LDLコレステロール の影響は人によって違ってくる。どのような人が、LDLコレステロール に気をつけるべきか、細かなリスク分類がある。

この分類は、また後の記事で取り上げる。

次回は同じ茨城県の人を対象にした、LDLコレステロール と 脳出血 との関連を調べた論文を紹介する。

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