【抗肥満薬】 ウゴービ の 副作用 は 89.7 %、主に吐気や下痢など

ウゴービ は 2024年2月に発売された、画期的な抗肥満薬です。ウゴービ は 90% の人で副作用が起き、主に吐気や下痢などの消化器症状です。最も懸念された精神神経系の副作用は、臨床試験では否定されました。今日は、新しい抗肥満薬の副作用について考えます。

ポイント

  • 副作用は 89.7 %、主に吐気や下痢など
  • 精神疾患を持つ人は、臨床試験から除外されている
  • 減量して病気が減ることを証明した

はじめに

新しい抗肥満薬は安全だろうか?

前回は、過去に多くの抗肥満薬が副作用で販売中止なったことを紹介した。それを踏まえて 今回は ウゴービ の安全性を検証する。

ウゴービの副作用

ウゴービの副作用について、最初に行われた STEP 1という大規模試験 をもとに検討してみる。

STEP 1 試験の除外基準

臨床試験は、副作用の発生率を抑えるため、副作用の出そうな人は予め除外して行われる。除外された人には新薬の効果と安全性が証明されないので、注意する必要がある。

STEP 1 臨床試験の除外基準

体重関連
過去 90日以内 に 5kg 以上の体重変動がある
減量手術を受けたことがある
既往症
内分泌疾患
膵炎の既往
5年以内のがんの病歴
腎機能障害(eGFR < 15) など
精神疾患
2年以内のうつ病の病歴
統合失調症、躁うつ病と診断されている
自殺企図歴がある
精神疾患のスコアリングで一定以上
PHQ-9 15点、C-SSRS 4以上
試験のプロトコル をもとに作成

STEP 1 試験にはいくつかの除外基準が設定されている。

まず、体重の変動が大きいと、新薬の効果が安定しないため除外している。

次に内分泌疾患と膵炎は、薬の効き方すると悪化させる可能性が高い病気である。

そして 過去の薬剤の教訓から、精神疾患を丁寧に除外 している。

副作用の頻度

STEP 1 試験で報告された副作用は以下の通りになる。

セマグルチド群 偽薬群
有害事象 89.7 % 86.4 %
重篤な有害事象 9.8 % 6.4 %
薬剤の中止 7.0 % 3.1%
セマグルチド群 偽薬群
胃腸障害 74.2 % 47.9 %
吐気 44.2 % 17.4 %
下痢 31.5 % 15.9 %
嘔吐 24.8 % 6.6 %
便秘 23.4 % 9.5 %
セマグルチド群 偽薬群
アレルギー 7.4 % 8.2 %
がん 1.1 % 1.1 %
精神障害 9.5 % 12.7 %
セマグルチド STEP1臨床試験 の論文(2021)をもとに作成

まずは、有害事象の発生率が非常に高いことが分かる。およそ9割の人で副作用が起こる。

ウゴービで特に多いのが胃腸障害で、70% 以上の確率で起こる。楽に痩せる薬ではなく、吐気や下痢に悩みながら痩せる薬になる。

次に、過去の薬剤で多かった精神障害について、もう少し詳しく見てみる。

精神障害の分類

現在、臨床試験での副作用の評価方法は標準化 されている。精神障害は DSM-Ⅴ という基準に基づいて判定される。その一部分を抜粋する。

精神障害
統合失調症
躁うつ病
うつ病
不安障害・強迫性障害
摂食障害(拒食症・過食症)
物質関連障害(アルコール や 薬物)
睡眠障害 など
DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン をもとに作成

精神障害には、ちょっとした気分の落ち込みなどは含まれず、基本的に精神科で診断を受けるほどの病気 になる。

精神科領域でメジャーな うつ病・躁うつ病・統合失調症 は、臨床試験の開始のときに除外されている。よって、これらの病気は 試験中 に発症した場合にのみカウントされてる。

STEP 1 臨床試験の精神障害の発症数

STEP 1 試験で報告された精神障害の頻度は、10 % 前後になっている。

セマグルチド群(1,306 人) 偽薬群(655 人)
精神障害 124 人(9.5 %) 83 人(12.7 %)

論文では発症数しか記載がないので、その内訳を知ることはできない。

今回の試験の参加者で多かったのが、過食症に代表される摂食障害だったと考えられる。米国の摂食障害の生涯有病率は 1.93 % になるが、今回の試験参加者はおそらくそれより多い。

興味深いことに、試験ではセマグルチド群より偽薬群の方が精神障害が多く発生している。手元で χ二乗検定 を行ってみると有意差がある。

新薬のr臨床試験に参加して注射を打っているにも関わらず、体重が減少しなかったことが、強いストレスになったのかもしれない。

いずれにしても、セマグルチド群の方が発症率が少ないので、臨床試験では精神障害の副作用は無い という結果になる。

禁忌事項は糖尿病のみ

その他の臨床試験でも、精神疾患やその他の病気ともに増加は認められなかった。それに従い、日本の添付文書 の禁忌は糖尿病関連(1型糖尿病・ケトアシドーシス・糖尿病性昏睡)とアレルギーのみになっている。

現在のところ、胃腸障害の副作用は多いが、かなり安全に使える薬と評価されている。

減量で病気は減るか?

ウゴービをたくさんの人に投与して、心血管病の発生を調査する SELECT という臨床試験が行われた。17,604人が参加した過去最大規模の試験になる。

ウゴービを 3年間 使用すると、心血管死・心筋梗塞・脳卒中 が 20% を減少するという結果が出た。ウゴービは 減量して病気が減ることを証明した唯一の薬 になった。

しかし、結果を見る上でいくつか気をつけるべきことがある。

SELECT 試験の対象は、過去に心血管病にかかったことのある人のみを対象にして行われたので、予防効果が証明されたのは再発予防に限られる。

また、減量の効果も2年時点での体重減少率が -9.8 % にとどまり、過去の試験より効果が落ちている。

そしていちばん大切なのが、薬剤の中止後の リバウンドの影響が考慮されていない 点にある。

以前に紹介したように、ウゴービ を使っている間は体重は減少するが、やめると リバウンド する。

体重が増加すれば、心血管病のリスクが高い状態に逆戻りする。

さらに、体重の増減を繰り返すことを ヨーヨーダイエット といい、これは逆に心血管病を増加させる ことが分かっている。この試験ではこの悪影響は見ていない。

なお、臨床試験の通りに薬剤を使用すると、保険診療でも 3年間の薬価は 約50万円! になる。これは、肥満に悩む多くの人にとって現実的に手の届く金額ではない。

心血管病の予防効果が示されても、現状では一部の富裕層のみが使える薬になっている。全世界の多くの人が恩恵を受けられるのは、後発品が発売された以降になるだろうと考えらえる。

次回は ウゴービ の ライバル、ゼップバウンド を取り上げる。

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