【体重】 食べて運動するのが、一番大事 丨 久山町研究
高齢者は、痩せないようにしっかり食べることが大切です。また、歩いて買い物袋を下げて帰ってくることも、健康にとても良い効果があります。今日は、筋力を保つことの大切さについて紹介します。

ポイント
- 年齢とともに、筋力を保つことが大事
- 歩行速度の低下は、死亡リスクが 2.02倍
- 握力の低下は、それだけで 死亡リスクが 2.56倍
はじめに
歩くことは、どれだけ健康に良いのだろうか?
前回は、年齢が上がるにつれて最適な体重が増えることを紹介した。
今回は、さらにお年寄りは痩せてはいけないという研究を紹介する。
サルコペニア
痩せていることを、筋力の低下から捉える概念がある。
「サルコペニア」という用語で、「サルコ」とは筋肉、「ペニア」は喪失という意味がある。
日本では、2010年頃 から使われるようになった言葉になる。

筋力の低下は危険信号
筋力が低下すると運動能力が落ちる。
運動能力の低下は、活動量の低下を引き起こす。
活動量の低下すると、認知機能の低下など様々な不都合を生じる。
最近の研究では、筋力を維持すること自体が健康に大切なことが分かってきた。
今日は、高齢者と筋力と健康の関係を調べた論文を紹介する。
日本人高齢者におけるサルコペニアの有病率と死亡率:久山町研究
Prevalence and Mortality of Sarcopenia in a Community-dwelling Older Japanese Population: The Hisayama Study
Kimitaka Nakamura et al.
J Epidemiol. 2021; 31(5): 320–327.

Prevalence and Mortality of Sarcopenia in a Community-dwelling Older Japanese Population: The Hisayama Study
The prevalence of sarcopenia defined using the Asian Working Group for Sarcopenia (AWGS) criteria in Asian communities has not been fully addressed. Moreover, few studies have addressed the influence of sarcopenia on mortality.A total of 1,371 and 1,597 ...
背景
サルコペニアは、筋肉量の低下に加え、筋力や身体能力の低下を特徴とする老年症候群
高齢化に伴い、サルコペニアは大きな問題になっている
対象
久山町に在住する 65歳以上 の高齢者
- 2012年集団 1371名(調査対象人口 の 67.3%)
- 2017年集団 1597名(同じく 68.2%)
方法
サルコペニアは、筋肉量の減少 と 筋力の低下 の両方があるときに診断
- 筋肉量 は 体組成計 を使用した 生体電気インピーダンス によって測定
- 筋肉量の減少は、骨間筋量指数 が 男性は 7.0未満、女性は 5.7未満
- 筋力は、握力と歩行速度で測定
- 握力の低下は、男性 26kg未満、女性 18kg未満
- 歩行速度の低下は、男性は 1.25 m/秒 未満、女性は 1.15 m/秒 未満
結果
追跡期間の中央値は 4.3 年
すべての被験者は完全に追跡調査
参加者の特徴
2012年 | 2017年 | |
---|---|---|
年齢 | 74.2歳 | 74.1歳 |
女性(%) | 56.2 % | 55.8 % |
体重 | 55.4 kg | 56.6 kg |
BMI | 23.2 | 23.3 |
エネルギー摂取量 | 1531 kcal | 1733 kcal |
以下の項目は、2012年より 2017年 の調査で有意に高かった
- 総エネルギー摂取量
- たんぱく質・脂肪エネルギー比
- 血清アルブミン
- 高コレステロール血症
サルコペニアの割合
出典:
J Epidemiol. 2021; 31(5): 320–327.
サルコペニアの割合は、2012年 7.4%、2017年 6.6%
サルコペニアの有病率は、年齢とともに増加
2012~2017年で、男性でわずかに減少、女性は横ばい
高齢 で ADL障害 があると サルコペニア になる可能性が高い
エネルギー摂取量 が多く、定期的に運動 していると、サルコペニア になる可能性が低い
サルコペニア と 死亡リスク

出典:
J Epidemiol. 2021; 31(5): 320–327.
追跡期間中、87人(2.9%)の被験者が死亡

死亡のリスク | |
---|---|
サルコペニア | 2.2 倍 |
握力の低下 | 2.56 倍 |
歩行速度の低下 | 2.02 倍 |
サルコペニア、筋力の低下 があると死亡リスクが上昇する
握力の低下は、それだけで死亡リスクが 2.56 倍
結論
65歳以上の サルコペニア の 有病率 は 約7%
サルコペニアがあると死亡リスクが 2.2 倍 になる
筆者の意見
追跡率 100%!
久山町研究は追跡率が高いことを特徴にしている。しかし、今回の研究ではすべての参加者を完全に追跡したという記載に驚いた。
論文の追跡率 100% は、書き手も初めて見る値になる。
電話や訪問調査など、担当者の地道な努力が報われている。
まず食べること
高齢者はまずは食べることが大切で、食べなければ運動する元気が湧いてこない。
サルコペニアの割合は、2012~2017年にかけて少し低下していた。エネルギー摂取量をはじめとした、栄養状態が良くなっている ようである。
高コレステロール血症は、2017年の方が多かった。
以前に紹介したように、他の大規模な研究でも コレステロール が高いほうが長生きという結果が出ている。
参考:脂質第3回 高脂血症は男性の方が危ない! 丨 茨城健康調査
高齢者は検査値を気にするよりも、まずは食べることが大切になる。これは、書き手の日常の感覚とも一致する。
次に運動
食べることができたら、次は運動をする。歩行はヒトにとって最も基本の運動になる。握力は買い物袋を下げたりして、日常生活の中で知らないうちに使っている。
80 歳以上 でも、病院まで歩いて来られる方はずっと元気で、認知症も少ない。
日常診療で何となく感じていることも、データの裏付けを得ると、より自信を持って接することができるようになる。
次回から、肥満を考える上で避けては通れない、抗肥満薬を取り上げる。