【体重】 年をとったら痩せてはいけない!丨 茨城健康調査

健康に最も良い体重はいくつでしょうか? 素朴な疑問ですが、はっきりと答えられる医療者は意外と多くありません。最適な体重は年齢とともに増加します。今日は理想の体重について紹介します。

ポイント

  • 高齢者は痩せないことが大切
  • 60歳以降はの 最適BMI は、23 ~ 26 ぐらい

はじめに

健康に最も良い体重はいくつだろうか?

体格を表すのに BMI という指標がある。体重を身長で2回割って求める。

  • BMI = 体重(kg) / 身長²(m)

BMI は 22 が良いと言われている。これは 検診のときに最も病気が少ない値 から来ている。

それに従うと、最適な体重は、

  • 身長 150cm  22 × 1.5 × 1.5 = 50 kg
  • 身長 170cm  22 × 1.7 × 1.7 = 64 kg

になる。

肥満と過体重

BMI をもとに、肥満と過体重は次のように定義される。

BMI 世界(WHO) 日本(日本肥満学会)
18.5未満 低体重 低体重
18.5~25未満 普通 普通
25~30未満 過体重 肥満
30以上 肥満 肥満

日本の基準は、世界と比べてかなり厳しく設定されている。

これは、日本が欧米先進国と比べて肥満者の割合がずっと少ないからである。

OECD6カ国の肥満と過体重の割合を示したグラフ.png (1148×728)
OECD Health at a Glance 2023 をもとに作成

OECD の 2023年 の統計によると、日本は先進国の中で一番 BMI が低く、過体重と肥満を合わせて 28% になる。

一方で米国は肥満者が 43%、過体重を合わせると 72% にのぼる。

最適な体重

最適 BMI が 22というのは、健康な労働年齢人口の 30~59歳 を基準にした値で、60歳以上の 最適 BMI については、信頼できるデータが示されていなかった。

今日は 壮年 ~ 老年期 の 最適 BMI を調べた 論文を紹介する。

日本人一般人口の最も低い死亡率に関する 年齢 および 性別 の BMI

Age- and Gender-specific BMI in Terms of the Lowest Mortality in Japanese General Population

Obesity. 2008 Oct;16(10):2348-55.

Tomoaki Matsuo, Toshimi Sairenchi, Hiroyasu Iso, Fujiko Irie, Kiyoji Tanaka, Nobuko Fukasawa, Hitoshi Ota, Takashi Muto

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1038/oby.2008.342
Age‐ and Gender‐specific BMI in Terms of the Lowest Mortality in Japanese General Population

Age‐ and Gender‐specific BMI in Terms of the Lowest Mortality in Japanese General Population

Objective: The primary purposes of our study were to establish age- and gender-specific BMIs in terms of lowest mortality (risk nadir BMIs) for the Japanese population, and to then compare those to (...

日本人 の 最適 BMI を調べた研究

目的

日本人の最低死亡率の観点から、年齢と性別に応じた 最適 BMI を確立する

対象

1993 年に茨城県で健康診断を受けた 40 ~ 79 歳の 98,196人
男性 32,060人、女性 61,916人

方法

健康診断で以下の項目を確認

  • 身長、体重、血圧、高血圧、糖尿病、脂質異常症、アルコール摂取量、喫煙状況

2003 年まで追跡、県内の死亡届をすべて調査

BMI を 7 つのカテゴリーに分類:

  • 18.5未満
  • 18.5~20.9
  • 21.0~22.9
  • 23.0~24.9
  • 25.0~26.9
  • 27.0~29.9
  • 30以上

死亡のリスク比は、BMI 21.0~22.9 を基準に計算

結果

平均追跡期間は男性 9.7年、女性 9.9年

BMIの各カテゴリーの分布

茨城健康調査BMIの度数分布表男性40~59歳.png (1153×755) 茨城健康調査BMIの度数分布表男性60~79歳.png (1153×760) 茨城健康調査BMIの度数分布表女性40~59歳.png (1144×753) 茨城健康調査BMIの度数分布表女性60~79歳.png (1155×752)
論文の表 ををもとに作成

男性は 40~59歳 443人(3.5%)、60~79歳 3,487人(17.9%) が死亡
女性はそれぞれ 433人(1.4%) と 2,731人(9.1%)

BMI 21.0~22.9 と比べた死亡リスク

BMI -18.5 18.6-20.9 21-22.9 23-24.9 25-26.9 27-29.9 30-
男性 40-59歳 2.05 1.16 1.0 1.09 1.02 1.08 1.54
男性 60-79歳 1.58 1.17 1.0 0.97 0.93 0.93 1.43
女性 40-59歳 1.77 1.13 1.0 1.18 1.23 1.46 2.23
女性 60-79歳 1.70 1.17 1.0 0.97 1.03 1.17 1.39
論文の表 をもとに作成

BMI と 死亡リスク の関係は U 字曲線になる

茨城健康調査BMIと死亡の相対危険度男性40~59歳.png (1157×749) 茨城健康調査BMIと死亡の相対危険度男性60~79歳.png (1155×750) 茨城健康調査BMIと死亡の相対危険度女性40~59歳.png (1153×746) 茨城健康調査BMIと死亡の相対危険度女性60~79歳.png (1154×748)
論文の表 をもとに作成

年齢、喫煙状況、アルコール摂取量で補正した 最適 BMI

男性 女性
40~49歳 23.6 21.6
50~59歳 23.4 21.6
60~69歳 25.1 22.8
70~79歳 25.5 24.1
論文の表 をもとに作成

結論

60~79歳 の 最適 BMI は、40~59歳 より高い

日本人集団では 最適 BMI は 年齢とともに上昇する

筆者の意見

参加者の男女の特徴

茨城健康調査を紹介するのは今回で3回目になる。茨城健康調査は県レベルでの調査で、参加人数が多いのでとても参考になる。

今回の参加者の性別は、男性の参加者が女性の半分程度と少ない。

調査が行われたのは 1993年なので、当時は職場で健康診断を受ける男性が多く、自治体の健康診断を受けた男性は少なかったのかも知れない。

年齢と BMI の分布を見ると、男性は年齢が上がるにつれて痩せて、女性は少し太るようである。

死亡率は男性の死亡率は女性の2倍になっていて、やはり女性は長生きなことが分かる。

最適 な 体重 は 年齢 とともに上昇する

BMI は 22 が勧められているが、60歳以上 ではもう少し太めが良い。

同時期に報告された、日本の 45市町村 で行われた大規模な調査 でも、同様に高齢者の痩せは良くないという結果が出ている。

実際の診療でも壮年期の肥満はよくみるが、老年期の肥満をみることは少ない。年齢とともに食欲や消化器の力が衰えるのだと思う。

BMI 25 以上を肥満とする日本の定義 は、高齢者の特に男性にとって厳しすぎる。

BMI は栄養状態の指標でもあり、病気になった時に病気と戦う体力に関係している。

年齢が上がるにつれて、しっかり食べて痩せないことに気を配る 必要がある。

次回も高齢者の体重について検討する。

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