【疫学調査】 久山町研究 は 50年以上 日本人を見続けている

日本で一番有名な医学研究の一つに、久山町研究があります。久山町研究は 約50年前 に始まり、現在もその研究は続いています。地道な調査を積み重ねて、日本人の病気について多くのことを明らかにしてきました。今日はその研究について紹介します。

ポイント

  • 過去 50年 で 脳卒中 は大きく減少した
  • 糖尿病 は増加している
  • 認知症 も増加している

はじめに

日本で一番有名な研究は何だろうか?

久山町研究という研究がある。久山町は九州の郊外の町で、医学界ではやや有名になっている。

久山町研究は 1961年 に始まった歴史のある研究で、現在もその研究は続いている。久山町研究は日本人の病気について多くのことを明らかにしてきた。

今日は久山町研究について、概略を紹介した論文を取り上げる。

日本の遺産な集団研究:久山町研究

Japanese Legacy Cohort Studies: The Hisayama Study.

Toshiharu Ninomiya

J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6192972/
Japanese Legacy Cohort Studies: The Hisayama Study

Japanese Legacy Cohort Studies: The Hisayama Study

The Hisayama Study is a population-based prospective cohort study designed to evaluate the risk factors for lifestyle-related diseases, such as stroke, coronary heart disease, hypertension, diabetes, and dementia, in a general Japanese population. The ...

久山町研究について

久山町研究は、生活習慣病の危険因子の評価を目的とした、前向き研究である。調査は 40歳以上 を対象に、1961年 から実施されている。この研究の特徴は、参加率の高さ(全住民の70~80%)と高い追跡率(99%)にある。

久山町研究の論文の図、久山町の年代別の人口の割合を日本全国と比較している。両者はよく一致している。.PNG (415×430)
久山町と日本全国の年齢と性別の分布
出典:
J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

久山町は、福岡市の北東に隣接する田園地帯で、 町の人口は 1960年代 には 約6,800人、現在は 約8,500人であり、年齢や職業分布が日本の平均に似ている。人口の変動が小さく、追跡損失が少ない調査が可能である。

久山町研究の論文の図、久山町研究の開始年度と参加人数を示した図。数年おきに新しい調査が開始されている.PNG (880×478)
久山町研究のそれぞれの開始年度
出典:
J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

久山町研究は、それぞれ 1961年、1974年、1983年、1988年、1993年、2002年、2007年、2012年 に開始されている。40歳以上 の全住民の 70~80% が含まれるよう最大限の努力が払われ、99% 以上の高い追跡率を達成している。

各集団は同じ追跡方法を用いており、年代による比較が可能でになっている。

研究の成果

脳卒中と冠動脈心疾患

久山町研究の論文の図。脳卒中と冠動脈心疾患の発症率の年代による変化を示している.PNG (905×576)
脳卒中と冠動脈心疾患の発症率の変化
左から、脳卒中全体・脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血・冠動脈心疾患
出典:
J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

脳卒中の発生率は、1960年代 から 1970年代 にかけて大きく減少したが、その後数十年間で鈍化した。脳梗塞と男性の脳出血にも同様の傾向があった。

冠動脈心疾患(心筋梗塞と狭心症)は、男性では変化はなかったが、女性では 1980年代 から 2000年代 にかけて減少した。

久山町研究の論文の図、脳梗塞のサブタイプの年代による変化を表している.PNG (615×342)
脳梗塞の分類 グラフは下から ラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓・不詳
出典:
J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

脳梗塞の分類について、1961年、1974年、1988年 を比較すると、ラクナ梗塞(微小な脳梗塞)の発生率は大きく減少して、アテローム血栓性梗塞(動脈硬化性の脳梗塞)および心原性脳塞栓(心臓の不整脈に起因する脳梗塞)の割合が増加していた。

1960年代 から 2000年代 にかけて、血圧の管理は大きく改善され、喫煙の頻度も減少した。一方で、糖尿病・高コレステロール血症・肥満などの有病率は逆に増加した。こうした変化が、脳卒中と冠動脈心疾患の種類の変化に、影響を与えたと考えられる。

糖尿病

糖尿病患者数は、高齢化・経済発展・生活習慣の欧米化などの影響で増加している。久山町研究では、1988年 と 2002年 に経口血糖負荷試験を行い、糖尿病・境界型糖尿病・正常高値血糖の有病率を調査した。その結果、糖尿病と正常高値血糖の有病率が男女ともに 14年間 で増加していた。

久山町研究の論文の図、1988年と2002年の糖尿病の有病率の変化を能わしている.PNG (816×317)
糖尿病の有病率の変化
グラフは左から糖尿病・境界型糖尿病・正常高値血糖・正常
出典:
J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

この調査では、糖尿病の危険因子を特定した。危険因子には空腹時血糖に加えて、年齢、性別、糖尿病の家族歴、腹囲、BMI、高血圧、運動不足、喫煙が含まれていた。これはライフスタイルを改善することで、糖尿病の発症を予防できる可能性があることを示している。

認知症

久山研究は、過去四半世紀で認知症が増加したことを明らかにした。

認知症の中で、特にアルツハイマー型認知症 が顕著に増加した。脳血管型認知症は 1985年 から 1998年 までは減少したが、その後は増加している。

年齢の影響を調整すると、脳血管型認知症の増加は消失したが、認知症の総数とアルツハイマー病の有病率は依然として増加していた。

久山町研究の論文の図、年代ごとの認知症のサブタイプの変化を表している.PNG (328×263)
認知症の有病率 左:脳血管型認知症 右:アルツハイマー型認知症
出典:
J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

久山町研究は認知症の危険因子、すなわち高血圧・糖尿病・喫煙・食事パターン・運動不足を明らかにした。特に、糖尿病は認知症全体のリスクを 1.74倍 増加させ、アルツハイマー型認知症のリスクを 2.05倍 増加させていた。

久山町研究の論文の図、糖尿病の発症時期と脳の海馬の容積の関係を表したグラフ.PNG (393×286)
脳の海馬の容積と糖尿病との関係
左:健常者 中央:高齢発症の老尿病 右:中年発症の糖尿病
出典:
J Epidemiol. 2018 Nov 5;28(11):444-451.

久山町研究は、糖尿病の罹病期間が、脳の海馬(記憶を司る領域)の容積の低下と関連していることも示した。中年期に糖尿病を発症した被験者は、晩年に糖尿病を発症した被験者よりも海馬の萎縮が強かった。これは、早い時期に糖尿病を適切に管理することで、認知症の発症を予防できる可能性があることを示している。

研究の総括

久山町研究は過去半世紀に渡って、幅広い生活習慣病について、その有病率・発生率・予後・危険因子に関して貴重な情報を提供してきた。この研究は、血圧の管理と禁煙の重要性を示して、心血管疾患、特に脳卒中の減少に貢献した。

しかし、最近の糖尿病と認知症の増加は大きな課題となっている。久山町研究の成果は、これらの予防戦略にも役立つと考えられる。我々は、健康と寿命を改善する研究成果を提供するために、これからも努力を続けていく。

謝辞

調査に協力していただいた久山町の住民、町長、保健福祉課の職員、町内外の開業医や病院の医師に感謝します。

筆者の意見

久山町研究は有名な研究で、その概略を知ることができた。

高い参加率(全住民の70~80%)と高い追跡率(99%)は、地道な電話調査や訪問調査の結果で、その成果が日本の医療の質の向上に与えた影響は大きい。

久山町研究からは多数の研究成果の報告があり、折に触れて紹介する機会があると思う。

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