【尿酸】 新しい尿酸低下薬は安全なのか?
米国で行われた試験で、フェブキソスタットは心血管病のリスクを高めることが明らかになりました。一方で、欧州で行われた別の試験では安全性にながなかったという結果も出ています。日本人の場合は、病気の発生率から考えると米国人ほど危険は多くはありません。この問題について、書き手の考えをまとめます。

ポイント
- フェブキソスタット は 心血管病 の リスクが ある
- 厚生労働省は フェブキソスタット をやめる必要はないという見解
- 不利益を受けるのは 500人 に 1人
はじめに
フェブキソスタットは実際に安全なのだろうか?
FAST試験と厚生労働省の見解
CARES試験 の結果、フェブキソスタットは心血管死のリスクを高めることが明らかになった。そのの影響は大きく、米国ではフェブキソスタットは治療の第一選択から外れてしまった。
一方、欧州で行われた別の大規模臨床試験(FAST試験) では、安全性は差がなかったという結果も出ている。こちらには、フェブリクの開発元である日本の帝人ファーマ社も出資している。
厚生労働省は、現時点でフェブキソスタットをやめる必要はないという見解 である。その理由として、日本では心血管イベントの発症率が低いことなどを挙げている。
厚生労働省の見解に沿って、自分なりに考えてみる。
CARES試験と心血管イベント発生率
1つ目は、心血管イベントの発生率について考える。
CARES試験 は検出率を上げるために、心血管病の高リスクの人を対象にしている。
研究参加人数 6,180人 のうち、心血管疾患で死亡した人が 234人(3.8%)と非常に多い。今回の試験では 約 45% が追跡不能になっているので、実際の死亡率はもっと高い。
CARES試験 の心血管死の定義は、次の通りになっている。
参考:試験の補足資料
- 心臓突然死
- 急性心筋梗塞
- 心不全
- 脳卒中
- 不整脈
- 肺塞栓症など
N Engl J Med 2018; 378:1200-1210 補足資料
日本人についてこれとの比較は難しいが、2022 年 の 厚生労働省の人口動態統計 では、心疾患が 0.19%、脳血管疾患が 0.09% になっている。両方合わせて3年間観察すると 0.84% になる。
仮に CARES試験 の死亡率が日本の 4.5倍 だったとすると、日本で1名の死亡を防ぐためには、約320名 を フェブキソスタット から アロプリノール に切り替える必要がある。
重ねて書くが、CARES試験 は脱落者が多いので、実際の数字はもっと多い。おそらく500人近くになると思われる。
フェブキソスタットを飲んでいて不利益を受けるのは 500 分の 1、つまり 0.2 % の確率になる。
これは無視できない数字であるが、他の病気の発生率などと比べると必ずしも高いとは言えない。
薬剤の投与量について
2つ目は薬剤の投与量について考える。
CARES試験 では、日本の使用量の倍の 40~80mg が使用されている。
一方、書き手は尿酸値の目標を 6.5 ぐらいにしており、使用するのはせいぜい 20mg で、40mg は用いたことがない。
一般に、薬の投与量が少なければ副作用の発生も少ないはずである。
しかし少量のフェブキソスタットの安全性についての具体的な報告はないので、これ以上の検討はできない。
腎機能低下例について
3つ目は腎機能について。
フェブキソスタットは、その特徴から腎機能が低下した例で多く使われている。一方で、CARES試験 では 推定GFR 30 未満 の高度腎機能低下例は除外されている。
参考:試験のプロトコル 除外項目13 腎機能について

N Engl J Med 2018; 378:1200-1210 プロトコル
従って、CARES試験の結果は高度腎機能低下例には適応されない。
腎機能が低下した人に対する危険性は、直接的には証明されていない。
しかし、この考え方は場合によっては危険でもある。腎機能低下例は心血管病のリスクが高いので、試験の対象に含まれていたら逆に危険性が顕在化していた可能性もある。
筆者の意見
フェブキソスタットの良い点は、確実な尿酸低下作用がある点である。書き手の経験でも、従来薬のアロプリノールより確実に尿酸値のコントロールができる。
一方で 500人 に 1人 の心血管死の危険性がある。
結論として、書き手はフェブキソスタットはあまり使いたくないが、現状で治療がうまくいっている人は切り替えないでも良いかと考えている。
薬剤を変えると確認の採血が必要になるし、旧来のアロプリノールではコントロールが困難な場合もあるからである。
トピロキスタット(トピロリック)は 2013年 に発売された薬で、今後の安全性の評価を見守る必要がある。
フェブリクが発売されたとき、書き手は地方病院に勤務していた。腎機能の低下した患者さんが多く、安全性が高いと考えられていたフェブリクに積極的に切り替えた苦い経験がある。
新薬の安全性をより長い目で捉えて、製剤パンフレットだけでなくもとの医学論文に目を通す重要性を痛感したできごとになる。
次回は日本で一番有名な研究
尿酸についての連載は今回で終了にする。
次回は薬から少し離れて、病気の発症率を調べた論文を紹介する。長年に渡って地道な調査を行い、日本人の病気を明らかにしてきた疫学調査の論文になる。