【心血管病】 過去 50 年 で、日本人 の 脳卒中 は 半分以下 に減っている 丨 久山町研究
病気について考える時、病気の発症率を知ることが大切です。日本人に起こりにくい病気について、必要以上に心配する必要はありません。今日は、日本人の脳卒中と心臓病が、過去 50年 でどのように変化したかを紹介します。

論文のポイント
- 50年間、延べ 11,206 人 を 分析
- 脳卒中 は 減少している
- 心臓病 は 変わらない
はじめに
脳卒中 と 心筋梗塞 はどちらが怖いだろうか?
前回までの死因統計の問題点
前回までは、茨城県の死亡診断書をもとにした死因統計を見てきた。死因統計は病気の大枠を把握するには便利だが、問題点もある。
1つ目は、死亡診断書の記載の仕方に医師によって違いがあること。これはある程度、仕方ないことになる。
もう1つは、死亡診断書には死因に関わった病名以外は記載されないこと。
実際には 脳卒中 や 冠動脈心疾患 を発症したが、死因に関係しなかったために記載されなかった ケース が、かなりあると考えられる。
より正確な「生きた統計」
病気について正確に知るためには、カルテ や その他 の 診療記録 も参考にするのが望ましい。
今日はこうした情報を長年にわたって集めて、脳卒中 と 冠動脈心疾患 の発症率の移り変わりを正確に調べた研究を紹介する。
以前に少し紹介した、久山町研究の成果の一つになる。
半世紀の久山町研究のデータから見る、日本人の心血管病とそのリスク因子の長期的な傾向(1961~2009年)
Secular Trends in Cardiovascular Disease and Its Risk Factors in Japanese Half-Century Data From the Hisayama Study (1961–2009)
Jun Hata et al.
Circulation 2013 Sep 10;128(11):1198-205

Secular Trends in Cardiovascular Disease and Its Risk Factors in Japanese
Background—Changes in lifestyle and advances in medical technology during the past half century are likely to have affected the incidence and mortality of cardiovascular disease and the prevalence of
目的
半世紀に渡る日本人の心血管病と、そのリスク因子の変化を検討する
方法
脳卒中または冠動脈心疾患の病歴のある⼈を除外
各年代で5つの集団を作り、7年間追跡
- 1961年(1,618人)
- 1974年(2,038人)
- 1983年(2,459人)
- 1993年(1,983人)
- 2002年(3,108人)
年に1回検診で調査
検診を受けなかった参加者や、町外に引っ越した人は郵送や電話で調査
結果
男性 の 参加者 の特徴

男性 | 1961~ | 1974~ | 1983~ | 1993~ | 2002~ |
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 55 歳 | 56 歳 | 57 歳 | 61 歳 | 61 歳 |
高血圧(%) | 38 % | 43 % | 48 % | 44 % | 41 % |
耐糖能異常(%) | 12 % | 14 % | 14 % | 30 % | 54 % |
脂質異常症(%) | 3 % | 12 % | 23 % | 25 % | 22 % |
高血圧の人の血圧 | 161 | 157 | 152 | 152 | 148 |
研究期間中、⼈⼝は 5歳 ⾼齢化
血圧の薬を飲んでいる人の割合は大きく増加
⾼⾎圧症の人の⾎圧は⼤幅に低下
耐糖能異常(糖尿病の前段階)・⾼コレステロール⾎症・肥満の有病率は増加
喫煙率は減少
飲酒率は男性でわずかに増加
女性 の 参加者 の特徴

女性 | 1961~ | 1974~ | 1983~ | 1993~ | 2002~ |
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 57 歳 | 58 歳 | 58 歳 | 61 歳 | 62 歳 |
高血圧(%) | 36 % | 40 % | 41 % | 35 % | 31 % |
耐糖能異常(%) | 5 % | 8 % | 7 % | 21 % | 35 % |
脂質異常症(%) | 7 % | 20 % | 34 % | 36 % | 35 % |
高血圧の人の血圧 | 163 | 161 | 155 | 155 | 149 |
⼥性も全体的に男性と同じ経過
女性の飲酒率は急激に上昇
脳卒中の発症率
487⼈(4.3%)が脳卒中を発症
うち、脳梗塞 71%、脳出⾎ 19%、クモ膜下出⾎ 9%、不明 1%

Circulation 2013 Sep 10;128(11):1198-205
脳卒中は 1960年代 から 1970年代 にかけて⼤幅に減少
その後は減少傾向は鈍化
1960年代の発症率は 7.2%、2000年代の発症率は 3.3%
冠動脈心疾患の発症率
208⼈(1.9%) が 冠動脈心疾患 を発症
うち 105人(0.9%) が 急性心筋梗塞 を発症

Circulation 2013 Sep 10;128(11):1198-205
急性⼼筋梗塞の発症率は時代で変化せず
脳卒中の生存率

Circulation 2013 Sep 10;128(11):1198-205
144⼈(1.3%)が脳卒中で死亡
脳梗塞 47%、脳出⾎ 33%、クモ膜下出⾎ 17%、不明 3%
脳卒中のサブタイプに関しては、脳梗塞による死亡率が⼤幅に減少
男性の脳出⾎と⼥性のクモ膜下出⾎による死亡率も同様
脳卒中の5年⽣存率は、1960年代 が 22.2%、2000年代 が 63.0% と大きく改善
冠動脈心疾患の生存率

Circulation 2013 Sep 10;128(11):1198-205
61⼈(0.5%)が冠動脈心疾患で死亡
男性の急性⼼筋梗塞に起因する死亡率は変化せず
⼥性では時代とともに減少傾向
急性⼼筋梗塞の5年⽣存率も、1960年代 が 16.3%、2000年代が 61.2% と大きく改善
その他
1965~ | 2004~ | |
---|---|---|
塩分摂取量 | 18.3 g | 9.8 g |
脂肪摂取量 | 37.5 g | 52.3 g |
塩分摂取量は大きくに減少
脂肪摂取量は大きくな増加
最新の調査でも、⾼⾎圧症患者の 平均⾎圧 が 140 を超えており、⾎圧管理が⼗分ではない
結論
⽇本⼈の心血管疾患をさらに予防するには、糖尿病や肥満の管理、喫煙率の削減、さらなる血圧の管理が必要
筆者の意見
久山町研究は追跡率がとても高く、病気を発症したときカルテや検査結果も調査しているので、信頼性が高い。
- 脳卒中の中で、脳梗塞が一番多い
- 脳卒中の発症率は、過去50年で半分以下に減少した
- 脳卒中・心筋梗塞ともに生存率は大幅に改善した
日本人の病気について、大きくこのようなことがわかる。
発症率と死亡率
今回の調査での発症率と死亡率は次のようになる。
脳卒中 | 冠動脈心疾患 | |
---|---|---|
死亡率 | 1.3 % | 0.5 % |
発症率 | 4.3 % | 1.9 % |
これから死因統計を見るときは、実際はおおよそ 3~4倍 の発症者数がある と考える必要がある。
2000年以降の脳卒中と心筋梗塞の発症率
一番新しい 2002~2009年 の集団においてそれぞれの発症率は、
1人年あたりの発症率 | |
---|---|
脳梗塞 | 0.32 % |
脳出血 | 0.19 % |
心筋梗塞 | 0.29 % |
になる。
LDLコレステロールを下げる治療は、脳出血を増やしてしまうが、脳梗塞と心筋梗塞は減少させる。発症率から考えると、治療は正当化できると考えられる。
脳卒中と心疾患の動向
最後にもう一つ、とても有名な統計を紹介する。
日本人の死因の変化を表したグラフで、現在の死因の第1位はがん、第2位は心疾患、第3位は老衰になっている。
日本では欧米と比べて脳卒中が多く、心疾患が少ないとされてきた。実際に、1970年代までは日本人の死因のトップは脳卒中が占めていた。
しかし血圧の管理で 脳卒中 は減少して、一方で生活習慣の欧米化で 心疾患 は増加している。両者は 1990年代 後半 で逆転して、今は 心疾患 が 脳血管障害 の 約2倍 になっている。
最近の心疾患の増加を見ると、以前よりコレステロールを管理する必要性が高まっているといえる。
次回は、心血管病 の リスク因子 と スタチン の 予防効果 について検討する。