【アムロジピン】 アムロジピンは1粒で2度おいしい | CAPE 試験
アムロジピンは血圧の薬ですが、1粒で2度おいしい薬です。血圧を下げると、心臓病と脳卒中が予防できます。アムロジピンは血圧を下げると同時に、心臓の血管を広げて心臓の血流を良くするはたらきがあります。今日は、アムロジピンの狭心症の予防効果を紹介します。

ポイント
- アムロジピンは血圧を下げる
- 狭心症を直接予防する
はじめに
アムロジピンは、血圧を下げる以外にどんな効果があるだろうか?
前回は、アムロジピンは確実に血圧を下げて、副作用も少ないことを紹介した。
今回はアムロジピンの狭心症の予防効果を紹介する。
心臓病をダブルで予防する
アムロジピンは、1粒で2度おいしい薬になる。
高血圧は、心臓病と脳卒中の原因になる。血圧を下げる一番の目的は、心臓病を脳卒中を予防することにある。
狭心症と心筋梗塞
心臓は、全身に血液を送り出す働きをするのと同時に、自分自身も血管で栄養されている。
心臓を栄養する血管が細くなり、十分に血流が行き届かなくなった状態が狭心症で、運動などで心臓の負担が増えると血流が足りなくなり、狭心症発作という胸の痛みを発症する。
さらに血流が悪くなって、血管が詰まってしまうと心筋梗塞になり、血流が届かなくなった部分が壊死してしまう。
いったん心筋梗塞になってしまうと元には戻らないので、狭心症の段階で治療をして、なるべく狭心症の発作を予防することが大切になる。
心臓の血流を良くする
アムロジピンは血圧を下げるほか、心臓を栄養する血管を拡張して心臓の血流を直接良くする働きがある。
これは他の種類の血圧の薬にはない特徴で、アムロジピンが今でも多く使われる理由の一つになっている。
今日はアムロジピンの狭心症の予防効果を見た論文を紹介する。前回から7年後の 1994 年 の論文になる。
アムロジピンは冠動脈疾患患者における一過性心筋虚血を減少させる: ヨーロッパにおける二重盲検概日虚血予防プログラム(CAPE試験)
Amlodipine Reduces Transient Myocardial Ischemia in Patients With Coronary Artery Disease: Double-Blind Circadian Anti-Ischemia Program in Europe (CAPE Trial)
JOHN E. DEANFIELD et al. for the CAPE study Gnoup
J Am Coll Cardiol. 1994 Nov 15;24(6):1460-7

Amlodipine reduces transient myocardial ischemia in patients with coronary artery disease: Double-blind circadian anti-ischemia program in Europe (CAPE trial)
Objectives. This study was carried out to determine the effect of the once-daily calcium channel blocking agent amlodipine (halflife 35 to 50 h) on th…
背景
一過性の心筋虚血による狭心症は、死亡率の上昇と関連している
目的
狭心症患者に対する アムロジピン の効果を調べる
対象
過去に3回以上の狭心症発作を発症したことのある、欧州の安定狭心症患者 315名
48時間の心電図中に 20分以上 または 4回以上 の虚血があること
方法
アムロジピン群と偽薬群に 2:1 でランダムに割り付け
アムロジピンは 5mg で開始し、4週間後に 10mg に増量
治療前と、薬剤の増量から1週間後に 48時間心電図 を測定
心筋虚血は心電図で 1mm以上の ST低下 が 1分 以上 あった場合に判定
一次評価項目
心筋虚血の回数、心筋虚血の時間、ST部分の変化の大きさ、ST部分の変化の面積
二次評価項目
患者の自覚による狭心症発作の回数、ニトログリセリン(狭心症の治療薬)の使用回数、日常生活の改善
結果
アムロジピン群の 95%、偽薬群の 88% が試験を完了した
両群合わせて 250人 (79%)の患者の心電図が解析対象になった
アムロジピン群は 89% が最終的に 10mg を内服
参加者の背景
アムロジピン群 | 偽薬群 | |
---|---|---|
年齢 | 58.5 歳 | 59.6 歳 |
罹病期間 | 4.1 年 | 4.9 年 |
血圧 | 133 / 83 | 137 / 83 |
心拍数 | 70 | 69 |
β-block の 内服率 | 63 % | 67 % |
両群の参加者の背景に差はなかった
内服前の48時間心電図
中央値 | アムロジピン群 | 偽薬群 |
---|---|---|
発作の回数 | 8 回 | 10 回 |
持続時間(分) | 60 分 | 53 分 |
ST部分の変化(mm) | 1.84 | 1.89 |
ST部分の変化(面積) | 87 | 76 |
内服前の心電図は両群で差はなかった
内服後の 48時間 心電図

中央値 | アムロジピン群 | 偽薬群 | 有意差 |
---|---|---|---|
発作の頻度 | -60 % | -44 % | あり |
ST部分の面積 | -62 % | -50 % | あり |
全体のST変化 | -56 % | -50 % | なし |
ST変化の最大値 | -16 % | -7 % | なし |
アムロジピン群は、偽薬群と比べて 狭心症発作の回数 と ST変化の面積が有意に改善した
発作は明け方や夜間にを問わず、1日を通して減少していた
自覚症状の変化

中央値 | アムロジピン群 | 偽薬群 | 有意差 |
---|---|---|---|
発作の頻度 | -70 % | -44 % | あり |
発作が減少した人の割合 | -79 % | -59 % | あり |
ニトログリセリンの使用回数 | -67 % | -22 % | なし |
身体活動の改善 | -75 % | -59 % | なし |
アムロジピン群は偽薬群より、多くの人で発作の自覚回数が減少していた
血圧の変化
内服前 | 内服後 | 変化 | |
---|---|---|---|
アムロジピン群 | 133 / 83 | 126 / 79 | -7 / -4 |
偽薬群 | 137 / 83 | 138 / 83 | +1 / 0 |
アムロジピン群は血圧が -7 / -4 低下した
心拍数は両群とも変化しなかった
有害事象
アムロジピン群 | 偽薬群 | 有意差 | |
---|---|---|---|
有害事象 | 17.3 % | 13.3 % | あり |
浮腫 | 5.4 % | 1.8 % | なし |
頭痛 | 2.5 % | 0.9 % | なし |
めまい | 2 % | 1.8 % | なし |
低血圧 | 0.5 % | 0 | なし |
狭心症の増悪 | 2 % | 3.5 % | なし |
有害事象は全体ではアムロジピン群のほうが多かったが、個別の項目では有意差はなかった
アムロジピン群で浮腫が多い傾向があった
結論
1日1回のアムロジピンによる治療は、狭心症発作を予防する
筆者の意見
アムロジピンは狭心症を予防する
今回の試験では、アムロジピンの狭心症の予防効果を直接確かめている。
アムロジピ群では血圧も下がっているので、狭心症の予防効果のいくらかは血圧の改善が影響した可能性がある。
それでも、アムロジピンが狭心症を予防することをはっきりと示している。
偽薬群でもかなり改善しているけど…
今回の試験では、アムロジピンで大きく症状が改善しているのと同時に、偽薬群でもかなり症状が改善している。
偽薬には有効成分が含まれていないので、一見すると不思議に感じる。

臨床試験で偽薬を飲んで効果が出ることを、偽薬効果(プラシーボ効果)という。
参加者のうち、偽薬を飲んだ人の多くは自分は実薬を飲んでいると考えた可能性が高いので、自覚症状が改善したのは偽薬効果と考えることができる。
しかし、心電図で測定した客観的な検査結果が改善している点は評価が難しい。
参加者は、試験のあいだ発作が起こりにくい穏やかな生活をしたのか、あるいは心電図を判定するスタッフが、新薬を飲んでいる可能性のある試験中の心電図を全体的に甘く判定したのか、実際のところはわからない。
ただし、アムロジピンと偽薬で統計的に有意な差が出ているので、アムロジピンは偽薬より狭心症を予防する効果があるといえる。
血圧があまり下がらない
前回の試験では、アムロジピン を 10mg 内服すると、血圧は 15 ~ 20 下がっていた。
今回の試験では、同じ量を内服しても血圧の低下は 7 程度 に留まっている。
参考:血圧 第5回
この差は、薬を飲む前のもとの血圧が大きく違っているからで、血圧の薬はもとの血圧が高いほど大きく血圧を下げる 効果がある。
前回の臨床試験の対象が高血圧の人だったのに対して、今回は血圧は概ね正常で狭心症がある人を対象にしている。
同じ薬を飲んでも、その人の背景によって効きめが大きく違ってくることが分かる。
アムロジピンを超える薬は?
アムロジピンは確実に血圧を下げ、さらに狭心症を予防する。
これは、今日でも血圧の薬でアムロジピンが一番よく使われている理由になっている。

それでは、発売から 30 年 以上 経つのにアムロジピンを超える薬は開発されなかったのだろうか?
実際には、アムロジピンに匹敵するような優れた血圧の薬はいつくか登場している。
次回はアムロジピンのライバルといえる、プリル薬について紹介する。