【血圧】 アムロジピン は、数日かけてゆっくり効いてくる
アムロジピンは一番よく使われている血圧の薬です。1980 年代 に登場した古い薬ですが、今でも高血圧に対して一番多く使われています。アムロジピンの優れた点は、何といっても穏やかに効いて副作用が起きないところにあります。今日はアムロジピンの優れた特徴について紹介します。

ポイント
- アムロジピンは安全な血圧の薬
- 確実に血圧を下げ、副作用も少ない
- 1日1回 飲めば効く
はじめに
一番よく使われている血圧の薬は何だろうか?
アムロジピンは 1980年代に開発された古い薬になる。それでもなお、今でも血圧の薬で一番多く使われている。
血圧の薬の処方ランキング
今日では、処方される血圧の薬の多くが ジェネリック医薬品 になっている。高血圧の薬の処方ランキングを見てみる。
アムロジピンは、発売から既に 30 年 が経っているにも関わらず、今でも高血圧の薬 TOP10 のうち5つを占めている。
9位の テラムロ は アムロジピン と他の降圧薬の合剤なので、実質6つを占めていることになる。
1980 年代 に開発された薬が、どうしてこんなに高く評価されているのだろうか?
昔は副作用が多かった
アムロジピンは、カルシウム拮抗薬という血圧の薬に分類される。カルシウム拮抗薬は切れ味が良く、確実に血圧を下げる作用がある。
初期のカルシウム拮抗薬は効きめが強い一方で、効きすぎて低血圧になることも多かった。
また、血管を拡張させて血圧を下げるので、顔面の紅潮やほてりといった副作用が起こりやすかった。
第3世代 の カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は時代とともに進化していて、アムロジピンは第3世代の薬にあたる。
発売 | 半減期 | 代表的な薬 | |
---|---|---|---|
第1世代 | 1975年 | 2時間 | ニフェジピン |
第2世代 | 1985年 | 3.6 時間 | ニフェジピンL |
第3世代 | 1993年 | 12 時間 ~ 36 時間 | アムロジピン・ニフェジピンCR |
バイエル ファーマ ナビ
アダラートL錠 インタビューフォーム
ノルバスク インタビューフォーム をもとに作成
表の中の半減期というのは、飲んだ薬の濃度が半分に減るまでの時間で、これを過ぎるとだんだん薬の効きが切れてくる。
新しい世代の薬は、古いものと比べて効き目が長くなっている。
薬の効果時間
薬の効果は、グラフでみると分かりやすい。
ニフェジピンL(第2世代)

ニフェジピンL は第2世代のカルシウム拮抗薬で、半減期は 3.6 時間 になる。
添付文書の通りに 1日2回 内服しても、薬の血中濃度は大きく上下する。薬が効きすぎるとめまいやふらつきが起きて、切れると高血圧になる。
また、薬の濃度が初日から最高に達するので、飲み始めから一気に血圧が下がりやすい。
アムロジピン(第3世代)

それに対して、アムロジピン はずっと穏やかに効いてくる。1日1回 飲めば効果は持続する し、濃度が安定しているので血圧の変動も少ない。
飲みはじめも1週間ぐらいかけてゆっくり効いてくるので、体が血圧の変化に慣れることができる。
以前の薬では多かった、飲み始めの めまい や ふらつき などの 副作用が起こりにくい。
また薬を1回 飲み忘れたとしても、前日までの分がしっかり効いているので、血圧が急に上がることもない。
アムロジピンの利点
アムロジピンの利点をまとめると次のようになる。
- 1日1回 飲めば効く
- 飲み始めは穏やかに効いてくる
- 飲み忘れても、血圧が急に上がることはない
これらの点は、発売から 30 年 以上経った今でも十分通用するし、残念ながらこれを決定的に上回る薬は登場していない。
今日は アムロジピン が登場する直前の 1987年 の論文を紹介する。
軽度から中等度の高血圧患者に対する、1日1回のアムロジピンによる治療
Once daily amlodipine in the treatment of mild to moderate hypertensionJ. WEBSTER, 0. J. ROBB. T. A. JEFFERS, A. K. SCO1TI J. C. PETRIE & H. M. TOWLER
Br. J. clin. Pharinac. (1987). 24, 713-719

BPS Publications
The British Journal of Clinical Pharmacology is a leading international clinical pharmacology journal published by the British Pharmacological Society.
導入
カルシウム拮抗薬は広く使われているが、20~50 % の確率で 頭痛・めまい・顔面紅潮・動悸・不整脈 などの副作用が起こる
アムロジピンは長い半減期を持ち、効果が穏やかに現れるため、副作用の軽減が期待できる
対象
拡張期血圧 が 95~114 の 軽度~中等度 の 高血圧患者 30人
方法
アムロジピン群と偽薬群に 1:1 で割り付け
アムロジピンは、以下のスケジュールで増量
- 偽薬:2週間
- 2.5mg :2週間
- 5mg:2週間
- 10mg:4週間
増量は副作用の兆候がなく、血圧が 130 / 85 以上のときに行った
薬は朝の起床時に1回だけ内服
血圧は 臥位 と 立位 でそれぞれ2回ずつ測定して平均値を求めた
一次評価項目
投与開始時と投与終了時(8週後)の血圧と脈拍の変化
投与終了後(8週後)から、さらに薬物消失後(12週後)の血圧と脈拍の変化
二次評価項目
アムロジピン投与群と偽薬群の試験全体の血圧の経過
結果
試験完了率は 83%
5名が内服タイミングが守れなかったため解析から除外
アムロジピン群は、最終的に 13名 が 10mg、2名 が 5mg を服用
参加者の特徴
アムロジピン群 | 偽薬群 | |
---|---|---|
人数 | 14人 | 11人 |
年齢 | 31 ~ 60 歳 | 42 ~ 64 歳 |
参加者は全員白人だった
臥位の血圧
アムロジピン群 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 脈拍 |
---|---|---|---|
開始時 | 158.4 | 104.7 | 71.3 |
内服中 | 139.4 | 89.5 | 72.1 |
薬剤消失後 | 156.9 | 102 | 74.1 |
偽薬群 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 脈拍 |
---|---|---|---|
開始時 | 166.4 | 104.6 | 68.5 |
内服中 | 163.5 | 101.1 | 74.4 |
薬剤消失後 | 166 | 102 | 74.5 |
臥位の血圧は アムロジピン群 で -19 / -15.2 有意に低下した
脈拍は変化しなかった
立位の血圧
アムロジピン群 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 脈拍 |
---|---|---|---|
開始時 | 157.6 | 107.6 | 79.4 |
内服中 | 140.4 | 100.8 | 80.9 |
薬剤消失後 | 153.9 | 107.8 | 79.9 |
偽薬群 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 脈拍 |
---|---|---|---|
開始時 | 163.1 | 107.5 | 80.7 |
内服中 | 160.1 | 105 | 80.9 |
薬剤消失後 | 160.6 | 109.6 | 84.5 |
立位の収縮期血圧は アムロジピン群 で -17.2 有意に低下 した
拡張期血圧も低下傾向だったが、有意差はなかった
脈拍は変化しなかった
試験期間全体の血圧の推移

拡張期 ●:アムロジピン群 ○:偽薬群
出典:
Br. J. clin. Pharinac. (1987). 24, 713-719
アムロジピン群は、薬の増量に従って穏やかに血圧が低下した
アムロジピンの効果が切れてから、元の血圧より高くなる「オーバーシュート」は認めなかった
有害事象
アムロジピン群 | 偽薬群 | |
---|---|---|
浮腫 | 2 人(13.3 %) | 0 人 |
頭痛 | 2 人(13.3 %) | 3 人(20.0 %) |
倦怠感 | 2 人(13.3 %) | 2 人(13.3 %) |
有害事象は両群で差はなかった
試験を中止した参加者はいなかった
考察
アムロジピンは確実に血圧を下げ副作用も少ない
カルシウム拮抗薬で初めて1日1回の投与をした試験
今回のように血圧の薬を少量から開始して徐々に増量する方法は、副作用を減らすのに有効
筆者の意見
アムロジピンは確実に効く
血圧の薬でいちばん大切なのは、飲んだら確実に血圧が下がることである。
今回の試験で アムロジピン を 最大量 の 10mg を内服すると、収縮期血圧は 15~20 下がっている。
アムロジピンは確実に効果があるし、血圧も大きく下がるので、1種類の薬だけで十分に血圧をコントロールすることができる。
効きめが強いだけでなく 2.5 mg・5 mg の用量の少ない剤形もあるので、その人の血圧によってきめ細かく調節ができる。
立ちくらみが起きない!
副作用がないことも、効きめと同じぐらい大切になる。
先に紹介した通り、過去のカルシウム拮抗薬は効きが強い一方で、めまい や 立ちくらみ などの副作用が多かった。
今回の試験では、アムロジピンを飲んでも臥位と立位の血圧に差がない所が、大きなポイントになっている。
すなわち、薬を飲んで寝た状態から急に立ち上がっても、めまいや立ちくらみが起きないことを示している。
このことが、アムロジピンが過去の薬と比べて最も進化した点の一つになる。
欧米人では浮腫が多い
アムロジピンは、欧米人では浮腫の副作用が起こりやすい。今回の論文では参加者の 13 % で起こっている。
その他の研究でも報告によって差があるが、大体 10%程度 で起こる。
幸いなことに、日本人では浮腫の副作用は起こりにくい。 アムロジピンの市販後調査では、日本人の浮腫の発生率 1 ~ 3% 程度 に留まっている。
多くの日本人にとって、アムロジピンが副作用が少なく一番安全な薬 であることは間違いない。
参加者の血圧が 160 を超えているけど…?
今回の試験では、参加者の平均血圧は 160 を超えている。分布の範囲としては、140 ~ 180 ぐらいまでの人がいたと思われる。
血圧 160 は、今日の基準からするとずいぶん高い。
研究が行われた 1980 年代 は、血圧の薬は副作用があるから飲まない! という人が大勢を占めていたのだと思う。
アムロジピンが登場して以降は、血圧の薬は副作用がほとんどなくなった。副作用を理由にしていた人も、副作用が無いから飲みましょうと説得されることが多くなった。
アムロジピンという優秀な薬の登場して、高血圧の捉え方そのものが変わっていったことが分かる。
次回はアムロジピンの心臓病の予防効果について見ていくことにする。