【運動】 高血圧の人は運動しても大丈夫? | EnRicH試験

高血圧の人は運動を控えた方がよいでしょうか? そんなことはありません。運動を続けると血圧は低下します。場合によっては、血圧の薬を飲むより下がります。今日は運動が血圧を下げる効果を紹介します。

ポイント

  • 運動を続けると血圧は 6 下がる
  • 脈拍は 5 低下
  • 脳卒中と心筋梗塞のリスク 20% 軽減が期待できる

はじめに

高血圧の人は運動をしても良いのだろうか?

運動をすると血圧が上昇する。高い血圧がさらに上がるので心配になる。

では、運動を続けるとどうなるだろうか?

運動を続けると、血圧は以前よりもずっと低下する。運動は食事とともに、血圧を下げる大きな柱になる。

今日は運動が血圧を下げる効果について、 2021年 に発表された ポルトガルの論文を紹介する。

治療抵抗性高血圧患者における運動トレーニングが血圧に及ぼす影響 | EnRicHランダム化比較試験

Effect of Exercise Training on Ambulatory Blood Pressure Among Patients With Resistant Hypertension A Randomized Clinical Trial

Susana Lopes MSc et al.

JAMA Cardiol. 2021 Nov; 6(11): 1–7.

https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2782554
Effect of Exercise Training on Ambulatory Blood Pressure Among Patients With Resistant Hypertension

Effect of Exercise Training on Ambulatory Blood Pressure Among Patients With Resistant Hypertension

This randomized clinical trial evaluates whether an aerobic exercise training intervention reduces ambulatory blood pressure among patients with resistant hypertension.

目的

有酸素運動 が 治療抵抗性 の 高血圧患者 の 血圧を下げるか調べる

対象

ポルトガルの2病院に通う 40~75歳 の 高血圧患者 53人

高血圧の薬を 3種類 以上 飲んでも収縮期血圧が 130 以上 の人

過去3ヶ月以内に血圧の薬を変更した人は除外

収縮期血圧が 180 以上の人も除外

方法

年齢 (40 ~ 55 歳、56 ~ 65 歳、66 ~ 75 歳)と 性別 によって グループ化

グループ毎に運動群と対照群にランダムに割り付け

運動群は中等度(最大酸素消費量の 50 ~ 70%) の 運動 を エアロバイク・ウオーキング を 40分間 実施

前後10分ずつ ウオームアップ・クールダウン

運動は週3回、合計 36回 行った

一次評価項目

24 時間の収縮期血圧

二次評価項目

24 時間の拡張期血圧・診察室血圧・家庭血圧

体組成・心肺機能 など

結果

試験機関は 2017年3月 ~ 2019年12月

運動療法の参加率は 98.8 %

参加者の背景

運動群 対照群
年齢 59.3 歳 60.8 歳
女性 54 % 56 %
BMI 29.8 30.4
降圧薬の数 4.6 4.7
論文の表 をもとに作成

両群の参加者の背景に差はなかった

試験開始時の血圧は両群で差がなかった。

試験終了時の血圧

EnRicH試験、試験終了時の収縮期血圧のグラフ.png (800×1120) EnRicH試験、試験終了時の拡張期血圧のグラフ.png (800×1120)
終了時収縮期血圧 運動群 対照群 有意差
診察室 129.8 140.2 -10.4 あり
昼間 125.6 133 -7.4 あり
24時間 121.2 126.9 -5.7 あり
夜間 111.6 115.9 -4.3 なし
終了時拡張期血圧 運動群 対照群 有意差
診察室 78.4 83.1 -4.7 なし
昼間 74.4 78 -3.6 あり
24時間 71.2 74 -2.8 あり
夜間 64.2 66.2 -2 なし
論文の表 をもとに作成

試験終了時の収縮期血圧は、運動群で有意に低下した

  • 診察室血圧 -10.4
  • 昼間血圧 -7.4
  • 24時間血圧 -5.7

試験終了時の拡張期血圧も、運動群で有意に低下した

  • 昼間血圧 -3.8
  • 24時間血圧 -2.8

参加者ごとの収縮期血圧の変化

EnRicH試験、症例ごとの血圧の変化運動群.png (400×860) EnRicH試験、症例ごとの血圧の変化対照群.png (400×860)
前:運動群  後:対照群
縦軸:血圧の変化  横軸:参加者
出典: JAMA Cardiol . 2021 Nov 1;6(11):1317-1323.

運動群では対照群と比べて、多くの参加者で全体的に血圧が低下した

24時間脈拍数

EnRicH試験、24時間脈拍数のグラフ.png (800×1120)
運動群 対照群 有意差
開始時 70.6 70.6 なし
終了時 65.5 71.2 あり
論文の表 をもとに作成

24時間脈拍数も、運動群で 5.1 有意に低下した

有害事象

めまい 2人(3.8 %)
膝の痛み・股関節の痛み 2人(3.8 %) など

結論

運動療法は、治療抵抗性高血圧患者の血圧を低下させる

筆者の意見

運動しても大丈夫!

まず、今回の試験では運動中に大きな合併症は発生していない。

収縮期血圧が 180 以上 の人は除外されているので、そこまで高いとさすがに危ないが、それ以下なら高血圧の人は運動しても大丈夫である。

臨床試験のデザイン

今回の試験はランダム化比較試験で行われているが、運動を行うことが参加者にも分かるので、盲検化はされていない。

運動療法も、食事療法と同じように実施することを参加者に伏せることができないので、純粋に運動のみの効果を調べるのは難しい。

それでも、対照群で新たに運動をはじめた人は多くはなかったと思うので、運動群と対照群との比較で客観的な評価はできていると思われる。

運動の強度

今回の試験で運動群の参加者は、最大酸素摂取量の 50 ~ 70 % の中等度負荷の有酸素運動を 40分間 行っている。

エアロバイク・ウオーキング を 40分間 継続するのは、かなりの運動量 になる。これを 36 回 続けたので、参加者は相当頑張っている。

少なくとも、臨床試験というきっかけがなければ、これだけの運動を自分で始めるのは難しかったと思う。

一方で、いったん生活習慣として定着すれば、日々の生活で続けていくのが無理な運動ではない。

日常生活で実施可能なことを評価した点で、この試験は意義が大きい。

運動の効果

運動は血圧を 4 ~ 7 も低下させる。前回まで紹介した食事に劣らず、大きな効果になる。

さらに重要なことに、運動を続けて心肺機能を鍛えることで脈拍まで下がっている。

脈拍が下がると、血圧と同じように心臓の負担が軽減する。

一般的に、脈拍が下がると血圧は上昇してしまうことが多い。

運動は血圧と脈拍をダブルで下げるので、心臓の負担を減らす効果もダブルで大きい

今回の結果から、脳卒中のリスク 約30% 軽減、心筋梗塞のリスク 約20% 軽減 が期待できると見積もられている。

24時間血圧の評価

今回の試験では、参加者の 24時間血圧 を評価している。24時間血圧は、小型の携帯型血圧計を 1日 装着して測定する。

昼間は 20分毎・夜間は 30分毎 に測定して、計 60 回 の測定を行なっている。何度も計測して平均化するので、ばらつきを抑えた信頼できる値が得られる。

診察室・昼間・24時間・夜間 の血圧

論文には、診察室・昼間・24時間・夜間 の血圧の それぞれの測定値が補足資料に添付 されていて、とても良い参考になる。

EnRicH試験、試験終了時の収縮期血圧のグラフ.png (800×1120) EnRicH試験、試験終了時の拡張期血圧のグラフ.png (800×1120)

血圧は高いほうから 診察室血圧 > 昼間血圧 > 24時間血圧 > 夜間血圧 の順になる。

この中で一番正確なのは 24時間血圧 で、先に書いた通りこれは1日を通して 60 回 測定している。

診察室血圧は24時間血圧より 7 ~ 14 程度、昼間血圧は 3 ~ 7 程度 高い。普段測る血圧は、実際の値よりより少し高めに測定されることが分かる。

血圧は 測定方法 や 測定時間 でかなり変動するので、これぐらいの差を意識しながら 24時間血圧 が 130 未満にすることを目指す感覚がよい。

次回から、いよいよ血圧の薬を紹介する。

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