【地中海食】 オリーブオイルで血圧は低下する? | NU-AGE 試験
日本食は健康に良い食事ですが、世界にはほかにも健康的な食事があります。地中海食はオリーブオイルをふんだんに使った食事で、他にも低脂肪乳製品や赤ワインなどを摂取します。今日は地中海食が血圧を下げる効果を紹介します。

ポイント
- 地中海食は健康に良い食事
- 血圧を下げ、動脈硬化を予防する
はじめに
健康に良い食事は、どのような食事だろうか?
前回は、塩分を控えてカリウムを摂取すると血圧が下がることを紹介した。
今回は血圧を下げる食事について紹介する。
世界の健康的な食事
健康に良い食事の代表として、次の3つがよく紹介される。
DASH食 | 地中海食 | 日本食 | |
---|---|---|---|
世界遺産 | - | 2010年 | 2013年 |
代表的な食材 | 全粒穀物 果物・野菜 赤身肉 低脂肪乳製品 豆類 |
オリーブオイル 果物・野菜 豆類 魚介類 低脂肪乳製品 赤ワイン |
白米 味噌汁 魚介類 大豆加工品 野菜 緑茶 |
N Engl J Med. 2018 Jun 21;378(25):e34.
J Nutr Sci Vitaminol. 2018;64(2):129-137. をもとに作成

ここ数年で、地中海食と日本食の人気が高まってきている。
DASH食
DASH 食は 1990年代後半に米国で提唱された食事で、塩分を控えて野菜・果物からたくさんカリウムを摂取 する。
食事で血圧を下げる効果があることが複数の臨床試験で証明 されて、欧米の健康に良い食事の代表格になっている。
地中海食
地中海食は ギリシャ・イタリア・スペイン・南フランス などの 地中海沿岸諸国 の食事で、その分布 は オリーブ の栽培地域とおおよそ一致する。

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地中海食はオリーブオイル をふんだんに使い、新鮮な野菜・果物・魚介類を摂取するのが特徴で、2010年 世界遺産 に登録されている。
地中海食については多くの研究が行われていて、 2000年代 にスペイン行われた 7,000人 以上を対象にした臨床試験 で、心筋梗塞や脳卒中などを直接予防する効果があることが分かっている。
日本食
日本食も世界的に健康に良い食事として評価されていて、2013年 に世界遺産 に登録されている。
魚介類に多く含まれている、健康に良い ω(オメガ)3 脂肪酸 を多く摂取するのが特徴で、ω3 脂肪酸は血液をサラサラにして炎症を抑える効果がある。
日本食は西洋の食事より心臓病を予防 して、さらに 西洋食よりも長生きになる ことが示されている。
ただし、日本人は塩分を好む傾向にあるので、他の食事に比べて減塩が難しい問題もある。
それぞれの食事の代表的な成分
Dash食 | 地中海食 | 日本食 | |
---|---|---|---|
カロリー | 1800 ~ 3000 kcal | 2000 ~ 2800 kcal | 1400 ~ 2400 kcal |
塩分 | 4 ~ 6 g | 4 ~ 6 g | 6 ~ 8 g |
カリウム | 3500 ~ 4700 mg | 3000 ~ 4200 mg | 2200 ~ 3000 mg |
Nutrients. 2021 Mar; 13(3): 967.
日本人の食事摂取基準 |厚生労働省 をもとに作成
今日は、地中海食の血圧を下げる効果について紹介する。
地中海食は高齢者の収縮期血圧と動脈硬化を改善する | NU-AGE 試験
Mediterranean-Style Diet Improves Systolic Blood Pressure and Arterial Stiffness in Older Adults
Amy Jennings et al.
Hypertension. 2019 Mar; 73(3): 578–586.

Mediterranean-Style Diet Improves Systolic Blood Pressure and Arterial Stiffness in Older Adults
We aimed to determine the effect of a Mediterranean-style diet, tailored to meet dietary recommendations for older adults, on blood pressure and arterial stiffness. In 12 months, randomized controlle
目的
地中海食が血圧と動脈硬化に与える影響を調査する
対象
ヨーロッパの5カ国の5施設 の 65 ~ 79 歳 の高齢者 1,294人
- イタリア(ボローニャ)
- イギリス(ノリッジ)
- オランダ(ヴァーヘニンゲン)
- ポーランド(ワルシャワ)
- フランス(クレルモン・フェラン)
方法
参加者を地中海食群 と 対照群 にランダムに割り付け
地中海食群は1年間の研究期間のうち 9回 栄養士によって栄養指導を実施
必要に応じて電話やメールでサポート
摂取が勧められた地中海食の食材 |
---|
全粒穀物・野菜・果物・豆類 |
低脂肪チーズ・魚介類・赤身肉 |
オリーブオイル・赤ワイン |
塩分 5g 未満・ビタミン D など |
研究の開始時と終了時に1週間の食事日誌を記入
最初と最後の診察時に 血圧 と 24時間蓄尿 を測定
さらに英国の参加者 237人(21.0 %)は、次の2つの動脈硬化指数を測定
- AIx:Augmentation Index
- PWV:Pulse Wave Velocity
結果
1,142 人(88.3 %)が試験を完了
データ欠落者を除いた 1,128 人(87.2 %) が解析対象
試験開始時の参加者の特徴
地中海食群 | 対照群 | |
---|---|---|
女性 | 56.7 % | 54.1 % |
年齢 | 70.7 歳 | 71.0 歳 |
血圧 | 137.0 / 75.1 | 138.0 / 75.6 |
塩分排泄量 | 8.3 g | 8.4 g |
カリウム排泄量 | 2,936 mg | 2,956 mg |
参加者の特徴は両群で差はなかった
食事日誌 の 変化

Hypertension. 2019 Mar; 73(3): 578–586.
地中海食群で摂取が増えたもの
増えたもの | 減少したもの |
---|---|
全粒穀物 豆類 オリーブオイル 低脂肪乳製品 魚介類 野菜 果物 |
高カロリーの砂糖食材 塩分 |
地中海食群で 全粒穀物・豆類・オリーブオイル などの摂取が増加した
収縮期血圧の変化

地中海食群 | 対照群 | 有意差 | |
---|---|---|---|
男性 | - 7.2 | + 2.0 | あり |
女性 | - 3.0 | + 0.3 | なし |
全体 | - 4.7 | + 0.9 | あり |
地中海食で収縮期血圧は男性で 7.2 低下 した
女性も低下傾向だったが、有意差はなかった
拡張期血圧の変化

地中海食群 | 対照群 | 有意差 | |
---|---|---|---|
男性 | - 3.2 | - 0.2 | なし |
女性 | - 2.1 | - 0.6 | なし |
全体 | - 2.4 | - 0.6 | なし |
拡張期血圧は有意差はなかった
塩分排泄量

地中海食群 | 対照群 | 有意差 | |
---|---|---|---|
男性 | - 1.4 g | + 0.2 g | あり |
女性 | + 0.01 g | - 0.3 g | なし |
全体 | - 0.5 g | - 0.2 g | なし |
塩分排泄量(塩分摂取量を反映する)は男性では有意に減少したが、女性では有意差はなかった
カリウム排泄量

地中海食群 | 対照群 | 有意差 | |
---|---|---|---|
男性 | + 173 mg | - 232 mg | あり |
女性 | + 28 mg | - 35 mg | なし |
全体 | + 83 mg | - 120 mg | あり |
カリウム排泄量は男性では有意に増加したが、女性では有意差はなかった
動脈硬化指数

地中海食群 | 対照群 | 有意差 | |
---|---|---|---|
AIx | - 6.1 | + 6.3 | あり |
PWV | + 0.4 | - 0.1 | なし |
動脈硬化指数のうち、AIx は有意に減少したが、PWV は有意差はなかった
結論
地中海食は収縮期血圧を低下させ、動脈硬化を抑制する
筆者の意見
非盲検の試験
まず、今回の試験は盲検化されていないので、参加者は自分が地中海食群と対照群のどちらに割り当てられたか分かっている。
栄養指導の時に他の健康のアドバイスもしたと思うので、純粋に食生活の結果のみを反映しているとはいえない。
食事療法の効果を証明するのが難しい要因の一つがここにある。
今回の試験は実施機関で参加者を募集して行われている。このような試験に応募する人はもともと健康意識が高い人なので、一般の人より良い結果が出た可能性がある。
結果の性差
試験結果について、男性のほうが減塩と血圧の低下が大きい結果になっている。そのメカニズムについて、論文でははっきりとは考察されていなかった。
一般的に、男性の方が食事をはじめとした不健康な生活習慣を持つことが多いので、そのぶん改善の余地が大きかったのかもしれない。
動脈硬化指数
今回の試験では、2つの動脈硬化指数 AIx と PWV を測定している。どちらも血圧測定の延長上で測定できて、外来で体に負担がなく測定できる検査になる。
- AIx:細い動脈の動脈硬化を反映
- PWV:比較的大きい動脈の動脈硬化を反映
このうち AIx は血圧の変動の影響を受けやすく、検査機器によってまだ誤差が大きい ことが報告されている。
今回のデータでも、AIx は測定時のばらつきが大きい。
日本では AIx はあまり普及していないので、PWV が一般的な検査になる。
今回の試験では改善しているのが AIx だけなので、1年間の食事療法ではっきりと動脈硬化が予防できるとまではいえない と書き手は捉えている。
日本人の AIx の測定については、健康診断で評価したこちらの論文 が参考になる。
欧州連合のバックアップ
今回の試験は 欧州連合(EU)のバックアップ を受けて行われている。
参加地域に地中海諸国だけでなく、英国・オランダ・ポーランド も含まれているので、地中海食の効果を幅広い国や人種に一般化することができる。
研究を通して、地中海食を健康的な食事として世界にアピールする狙いもあったと考えられる。

なお、英国は 2020年2月 に EU を脱退したので、今後このような国際研究に参加することは少なくなる。
次回は運動が血圧を下げる効果について紹介する。