【スタチン】 コレステロールは、どこまで下がれば良いか?
心臓病の再発予防では、LDL コレステロール を下げることが大切です。目標値は 70未満 が推奨されています。今回は心臓病のスタチンの使用量を検討した研究を紹介します。

論文のポイント
- 心臓病 の スタチン の用量を検討
- 高用量で LDLコレステロール は 62 に低下
- 高用量の方が再発が 16% 少ない
はじめに
LDLコレステロール は、いくつまで下げればよいのだろうか?
前回は、脳梗塞の再発予防に対するスタチンの効果を紹介した。
今回は、心疾患に対するスタチンの再発予防効果を見ていくことにする。
急性冠症候群後の、高用量と中用量のスタチン治療の比較
Intensive versus Moderate Lipid Lowering with Statins after Acute Coronary Syndromes
Christopher P. Cannon, M.D et al. Pravastatin or Atorvastatin Evaluation and Infection Therapy–Thrombolysis in Myocardial Infarction 22 Investigators
N Engl J Med 2004; 350:1495-1504

Intensive versus Moderate Lipid Lowering with Statins after Acute Coronary Syndromes | NEJM
Lipid-lowering therapy with statins reduces the risk of cardiovascular events, but the optimal level of low-density lipoprotein (LDL) cholesterol is unclear. We enrolled 4162 patients who had been ...
目的
冠動脈心疾患の急性期における、高用量スタチンと中用量スタチンの効果を比較
対象
8カ国の、10日以内 に急性冠症候群(急性心筋梗塞・不安定狭心症)で入院した患者 4,162人
方法
- 以下の 2群 にランダムに割り付け
- 中用量スタチン群(従来治療群):プラバスタチン 1日40mg
- LDLコレステロール 125 以上 のときは 80mg に増量が認められた
- 高用量スタチン群:アトルバスタチン 1日80mg
- 両群とも副作用が出た際は、半量への減量が認められた
- 抗血小板薬や降圧薬など、その他の治療薬はそのまま継続
- 治験薬以外の脂質低下薬は使用しなかった
一次エンドポイント
下記のイベントの合計
- 総死亡
- 心筋梗塞
- 不安定狭心症による入院
- カテーテルによる冠動脈の血行再建術
- 冠動脈バイパス術、脳卒中
二次エンドポイント
- 冠動脈心疾患 など 6項目
結果
追跡調査は 18 ~ 36 か月(平均 24 か月)
8 名(0.2%) が追跡不能
参加者の特徴
スタチン群 | 偽薬群 | |
---|---|---|
年齢 | 58.3 歳 | 58.1 歳 |
男性 | 78.4 % | 77.8 % |
急性心筋梗塞 | 70.2 % | 71.2 % |
不安定狭心症 | 29.8 % | 28.8 % |
平均年齢 は 58歳
女性が 22%
患者の 約 3 分の 2 が急性心筋梗塞、残りが 不安定狭心症
患者の 4 分の 1 は、試験開始前にスタチンを服用していた
コレステロールの変化
試験開始時の LDLコレステロール の 中央値 は 106
試験開始後、中用量スタチン群は 95 に低下
高用量スタチン群は 62 に低下
心臓病の発症
一次エンドポイント発生率は、中用量スタチン群 26.3%、高用量スタチン群 22.4%
高用量スタチン治療は、発生率を 16% 減少させた
高用量スタチン治療の効果は、1ヶ月以内で現れ、時間が経っても一貫
一次エンドポイントの個別解析でも、高用量スタチン治療を支持する一貫したパターン
血行再建の必要性を 14% 軽減
不安定狭心症の再発リスクを 29% 減少
高用量スタチンの効果は、性別、背景疾患、糖尿病の有無など、サブグループ全体で一貫
治療開始時の LDLコレステロール が 125 以上の患者では、効果がより大きい
有害事象
治療の中止率は両群で差はなし
肝酵素の上昇は、中用量スタチン群で 1.1 %、高用量スタチン群で 3.3%
結論
高用量スタチン は 中用量スタチン治療 より、再発予防効果が高い
筆者の意見
スタチンの投与量
今回の試験では、2種類のスタチンの投与量を比較している。
スタチンは、なるべく高用量を飲んだほうがが予防効果が高い。
日本との比較
今回の研究は、海外で行われている。試験では、日本の使用量を超えた量のスタチンが使われている。
中用量スタチン
プラバスタチン(先発品:メバロチン) 日本の使用量の 2倍
高用量スタチン
アトルバスタチン(先発品:リピトール) 日本 の 2~4倍
いずれも日本の最大量を大きく超える量が使用されている。日本の使用量では、少し効果が落ちる可能性がある。
LDLコレステロール の目標値は 70未満
今回の試験と同じように、スタチンの効果を比較する複数の試験が行われた。そして、その結果から、LDLコレステロール の目標値は 70未満になった。
70未満に到達した場合も、可能であればもっと下げるべき とされている。
日本の使用量で LDLコレステロール 70未満 に到達するのは難しいけれども、可能な限り最大量のスタチンを使用することが勧められている。
少し時代遅れの書き手からすると、70未満 はずいぶん低いとも感じる。
次回はこの 70未満 という数値の位置づけについて、アジア発の論文を見ていくことにする。