【スタチン】 スタチンは、脳梗塞の再発を 22% 予防する 丨 SPARCL試験

脳梗塞は再発がとても多いので、予防がとても大切です。スタチンの効果は大きく、脳梗塞の再発を22% 予防します。今日は、脳梗塞の再発に対するスタチンの効果を紹介します。

ポイント

  • スタチンは 脳卒中 の再発を 16% 予防
  • 脳梗塞 は 22% 減少
  • 脳出血 は 66% 増加

はじめに

スタチンは、どれだけ予防効果があるのだろうか?

前回は、脳卒中は再発がとても多いことを紹介した。今回は、脳梗塞に対するスタチンの再発予防効果を紹介する。

論文タイトルにある 一過性脳虚血発作 とは、脳梗塞のような症状が出現したが、24時間以内 に軽快した場合に診断する。脳梗塞の前段階とされている。

脳卒中 と 一過性脳虚血発作 後の高用量アトルバスタチンの効果

High-Dose Atorvastatin after Stroke or Transient Ischemic Attack

K.M.A. Welch et al. The Stroke Prevention by Aggressive Reduction in Cholesterol Levels (SPARCL) Investigators

N Engl J Med 2006; 355:549-559

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa061894
High-Dose Atorvastatin after Stroke or Transient Ischemic Attack | NEJM

High-Dose Atorvastatin after Stroke or Transient Ischemic Attack | NEJM

Statins reduce the incidence of strokes among patients at increased risk for cardiovascular disease; whether they reduce the risk of stroke after a recent stroke or transient ischemic attack (TIA) ...

目的

スタチンが 脳卒中 や 一過性脳虚血発作 後の 脳卒中リスク を軽減するか調べる

対象

  • 1ヶ月~半年以内 に 脳卒中 または 一過性脳虚血発作 を起こした 4,731人
  • 心房細動・その他の心原性塞栓症 などは除外
  • LDLコレステロールが 100~190 の患者

方法

  • 既に脂質低下薬を飲んでいた人は内服を中止
  • 1日あたり 80mg のアトルバスタチンを内服する群 と 偽薬群 にランダムに割り付け
  • 降圧薬・抗血小板薬・抗凝固薬 など、その他の治療薬はそのまま継続

一次エンドポイント

  • 脳卒中の発症

二次エンドポイント

  • 脳卒中または一過性脳虚血発作、その他心血管イベントなど10項目

結果

参加者の背景

スタチン群 偽薬群
年齢 63 歳 62.5 歳
男性 60.3 % 59.5 %
脳卒中 70.0 % 68.2 %
一過性脳虚血発作 29.9 % 31.8 %
論文の表 をもとに作成

経過

追跡期間の中央値は4.9年

両群の患者背景に差はなかった

偽薬群の方が、同意を撤回してスタチン治療を受けた患者が多かった

試験開始1ヶ月後、偽薬群の 平均 LDLコレステロール値は 133.5 で変化なし

アトルバスタチン群は 61.3 に減少(53%減少)

脳卒中の発症

SPERCEL試験の論文の図、脳卒中の再発率の比較.PNG (437×336)
脳卒中の発症までの期間
出典:
N Engl J Med 2006; 355:549-559
SPARCL試験の論文の図、脳卒中の発症率のグラフ.png (800×1120)
スタチン群 偽薬群 リスク
脳卒中の発症 11.2 % 13.1 % -16 %
脳梗塞の発症 9.2 % 11.6 % -22 %
脳出血の発症 2.3 % 1.4 % +66 %
脳卒中による死亡 1.0 % 1.7 % -43 %
冠動脈心疾患 5.2 % 8.6 % -42 %
論文の表 をもとに作成

脳卒中は、アトルバスタチン群 265人(11.2%)、偽薬群 311人(13.1%)が発症
アトルバスタチンは 脳卒中 のリスクを 16% 軽減

脳梗塞はアトルバスタチン群 218人(9.2%)、偽薬群 274人(11.6%)が発症
アトルバスタチン の 脳梗塞 のリスクを 22% 軽減

脳出血は アトルバスタチン群 55人(2.3%)、偽薬群 33人(1.4%)が発症
アトルバスタチン の 脳出血 のリスクを 66% 増加

有害事象

重篤な有害事象の発生に差は無かった

肝酵素値の上昇は、アトルバスタチン群 51人(2.2%)、偽薬群 11人(0.5%)で、アトルバスタチン群で多かった

考察

アトルバスタチンで脳出血が増加したが、脳卒中の減少という全体の利益は有意

46人 の患者 を 5年間 の治療すると、脳卒中が 1件 防げる

結論

脳卒中 または 一過性脳虚血発作 の直後に アトルバスタチン を開始することは有益

筆者の意見

今回の試験は盲検化されているが、LDLコレステロール を測定すると、投薬群か偽薬群か分かってしまう。

再発予防にスタチンの効果がありそうと感じ、偽薬群で同意を撤回した(試験を途中で離脱した)参加者が多かったようである。

他の心血管イベントの予防効果

本論文では、スタチンが心筋梗塞など、他の心血管イベントも抑制したと書かれている。しかし、その定義が別論文に掲載されていて詳細が確認できなかった。

グラフには、冠動脈心疾患の発症率のみを記載した。

スタチンの投与量

本試験で用いられた アトルバスタチン(先発品:リピトール)は、日本の 2~4倍 量が使用されている。

日本の投与量では、今回の試験結果よりも効果が劣る可能性がある。

Atorvastatin と Lipitor の検索数の推移.png (639×449)
Atorvastatin と Lipitor の検索数の推移 丨 Google Trends

それでも脳梗塞の再発率は非常に高いので、再発予防でスタチンの内服が強く勧められる。

ただし、論文中に出てきたように、スタチンは脳出血のリスクを増加させる。先に血圧を十分にコントロールするなど、脳出血を予防する慎重な配慮が必要 になる。

一過性脳虚血発作について

一過性脳虚血発作 は 脳梗塞 の前段階になるが、病院を受診した時には症状が改善していることが多く、診断が難しい。

診察時に明らかな神経症状がある場合は、専門の 神経内科 や 脳神経外科 に紹介する。

薬は、正確な診断があって始めて処方が可能になる。一般診療医レベルで一過性脳虚血発作を正しく診断して薬を始めるのは、なかなか難しいと思う。

もちろん、専門医で正しく診断を受けてスタチンを開始された場合は、継続するのが好ましい。

次回は、心臓病 に対する スタチン の 二次予防 の効果を見ることにする。

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