【スタチン】 コレステロールの目標値は、4割の人は達成できない 丨 LODESTAR試験
心臓病の再発予防では、LDLコレステロールを 70未満 に下げることが勧められています。しかし、現実にはスタチンを最大量飲んでも、到達できるのは6割に過ぎません。70 以上であっても、スタチンの予防効果はあることを紹介します。

ポイント
- スタチン の 打ちっぱなし治療 と、用量調節治療 を比較
- 心臓病の再発率に差はない
- LDLコレステロール が 70未満 に到達したのは、両方とも6割程度
はじめに
LDLコレステロール は、いくつまで下がるだろうか?
前回、心臓病の再発予防の LDLコレステロール の目標値は 70未満 になったことを紹介した。
70という目標はかなり厳しく、日常の診療ではスタチンを最大量飲んでも十分に下がらないことも多い。
スタチンの打ちっぱなし治療
スタチンの使い方も変化している。
欧米でのスタチンの処方は、初回から最大用量を開始してあとは調節しない方法が主流になってきている。
これは、火器の発射になぞらえて、打ちっぱなし方式と呼ばれている。
素人の書き手からすると、かなり乱暴な使い方にも思える。目標値を定めて調節するほうが、まだ安心できる気がする。
従来治療との比較
今回は、スタチンの打ちっぱなし治療と、投与量を調節する治療を比較した試験を紹介する。
- 固定高用量群:打ちっぱなし方式
- 用量調節群:LDLコレステロールを 70未満 を目標に投与量を調節
だいたい上記の位置づけになる。
冠動脈心疾患患者に対する、用量調節と固定高用量スタチン治療の比較 ー ランダム化比較試験 丨 LODESTAR 試験
Treat-to-Target or High-Intensity Statin in Patients With Coronary Artery Disease
A Randomized Clinical TrialSung-Jin Hong MD, et al. for the LODESTAR Investigators
JAMA. 2023 Apr 4; 329(13): 1078–1087.

Treat-to-Target or High-Intensity Statin in Patients With Coronary Artery Disease
This randomized clinical trial compares the efficacy of a treat-to-target low-density lipoprotein cholesterol (LDL-C) strategy of 50 to 70 mg/dL as the goal vs high-intensity statin therapy for the 3-year composite of death, myocardial infarction, stroke, or coronary revascularization in patients...
目的
冠動脈心疾患の患者において、LDLコレステロール の 治療目標値 を 50~70 に設定することが、固定高用量スタチンを使用する治療に劣らないことを証明する
対象
心筋梗塞・狭心症を発症した 19歳以上 の患者 4,214名
方法
- 用量調節群 と 固定高用量群にランダムに割り付け
開始時 | 継続 | |
---|---|---|
用量調節群 | 中用量スタチン | LDLコレステロール 50~70 で調整 |
固定高用量群 | 高用量スタチン | 調節せず |
ロスバスタチン | アトルバスタチン | |
---|---|---|
中用量スタチン | 10 mg | 20 mg |
高用量スタチン | 20 mg | 40 mg |
一次エンドポイント
下記イベントの合計
- 総死亡
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 冠動脈の血行再建術
二次エンドポイント
- 新規発症糖尿病・検査値異常(肝酵素・筋酵素・腎機能)・末期腎不全 など9項目
結果
4341人(98.7%)が 3 年間の追跡調査を完了
参加者の背景
用量調節群 | 固定高用量群 | |
---|---|---|
年齢 | 65 歳 | 65 歳 |
男性 | 72 % | 73 % |
LDLコレステロール | 86 | 87 |
高血圧 | 67 % | 67 % |
糖尿病 | 33 % | 33 % |
慢性腎臓病 | 7 % | 8 % |
両群の患者背景に差はなかった
スタチンの使用量
試験開始前は、25% が高用量スタチン、57% が中用量スタチンを服用
用量調節群は、1年後に 53%、2年後に 55%、3年後に 56% が 高用量スタチン を服用
固定高用量群は、93%、91%、89%
エゼチミブ(スタチンとは別の種類のコレステロール低下薬)は、6か月以降、固定高用量群よりも用量調節群でより多く使用
その多くは、高用量スタチンに追加して使用
LDLコレステロールの変化
JAMA. 2023 Apr 4; 329(13): 1078–1087.
LDLコレステロールの値は、6週間時点 では 用量調整群 の方が高かった
それ以降は有意差なし
研究期間全体では、用量調節群 69.1、高用量固定群 68.4 で有意差無し
3年後に LDLコレステロール が 70未満に到達していたのは、用量調節群の 58.2%、固定高用量群の 59.7%
心臓病の再発
一次エンドポイントは、用量調節群 177名(8.1%)、固定高用量群 190名(8.7%)で発生
- 総死亡は 54名(2.5%)と 54名(2.5%)
- 心筋梗塞は、34名(1.6%)と 26名(1.2%)
いずれも有意差なし
二次エンドポイントも有意差はなかった
下記の項目は有意差はないが用量調節群で少ない傾向があった
- 糖尿病の新規発症
- 肝酵素もしくは筋酵素の検査値異常
- 末期腎不全
結論
LDLコレステロール の目標を 50~70 に設定することは、固定高用量スタチン治療に劣らない
筆者の意見
韓国初の大規模な臨床試験で、実際に行われている2つの治療法を比較しているのでとても参考になる。
今回の試験では、最終的な LDLコレステロール の値は両群とも 68~69程度 になっている。どちらの治療でも到達点は変わらない結果になっている。
スタチンの使用量は、用量調節群 より 固定高用量群 の方が多い。
その代わり、用量調節群では エゼチミブ という、別の種類のコレステロールを下げる薬の使用が多く使われている。
エゼチミブ
エゼチミブ(先発品:ゼチーア)は、日本では 2007年 に発売されたわりと古い薬になる。
2015年に LDLコレステロール を50台まで下げる治療の有効性が報告 されて、その後から処方数が増えている。

今回の試験では、エゼチミブの使用量を含めると両群とも時間とともに治療の強度が上がっているが、LDLコレステロール の値は変化していない。
薬による LDLコレステロール 減少効果 は、どこかで頭打ちになる 結果になっている。
目標 の 到達率 は 6割程度
今回の試験で LDLコレステロール 70未満 を達成できたのは、どちらの群も6割程度 に留まっている。
循環器の専門の医師が診療しても、約4割 の人は 70未満 に到達できていない。
韓国人も日本人と同じアジア人なので、欧米の論文とは違った意味で参考になる。
PCSK9阻害薬
今回の試験の開始後に、PCSK9阻害薬という新しい薬が発売された。スタチンと組み合わせて、強力に LDLコレステロール を低下させる作用がある。

PCSK9阻害薬は、スタチン と エゼチミブ を併用しても十分に LDLコレステロール が下がらない場合に限って使用 する。
専門診療科で使用されていると思うが、書き手はまだ使っている例を見たことはない。
スタチンと糖尿病
スタチンには、深刻な副作用はないというのが定説だった。
しかし 2010年頃 から、スタチンが糖尿病の発症率を上昇させる という報告がいくつか上がっている。
今回の試験でも、糖尿病・腎機能障害 との関連が指摘されている。
スタチンの副作用についてまだ確立された考え方はないが、今後も注意して見ていきたいと思っている。
次回は 脂質異常症 についてのまとめにする。