【メタボ】 メタボ(修正案) は、糖尿病や高血圧より怖い! 丨 久山町研究
メタボリックシンドローム の診断基準の改定が、ときどき話題になります。メタボ は簡単な診断基準ですが、実際は病気とあまり関連していないという問題点があります。腹囲は実際には 何cm からきをつけるべきなのか紹介します。

ポイント
- 今の メタボリックシンドローム はあまり病気と関連がない
- 腹囲を 男性 90cm、女性 80cm に修正するべき
- すると正確に病気を予測できる
はじめに
メタボリックシンドロームは何が良くないのだろうか?
今回の記事は、診断基準の修正という少し難しい内容になる。メタボリックシンドロームが実際にどれぐらい病気と関係しているのか、気になる方は読んで頂きたい。
簡便な診断基準
前回、メタボリックシンドロームの診断基準は簡便さを重視して設定されたことを紹介した。
メタボリックシンドロームの診断基準ができてから、病気との関連を調べるために日本全国を対象に大規模な調査が行われた。
しかし困ったことに、メタボリックシンドロームは病気と関連していなかった という結果になってしまった。
参考:自治医科大学 (JMS) コホート研究の論文
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Metabolic Syndrome Mortality in a Population-Based Cohort Study: Jichi Medical School (JMS) Cohort Study
Metabolic syndrome is known to increase morbidity and mortality of cardiovascular disease. The National Cholesterol Education Program Adult Treatment Expert Panel III in 2001 (revised in 2005) and the Japanese definition of metabolic syndrome were launched ...
その原因は、腹囲の基準が男性には厳しく、女性には緩すぎた からである。
男性の該当者は女性の3~4倍
現在のメタボリックシンドロームの基準だと、男性は女性の3~4倍の該当者がいる。
病気のメカニズムとしては、男女ともに同じ原因で起こるので、ここまで性差が現れることは無いはずである。
実際には、男性はリスクが高くないのにメタボリックシンドロームと診断され、女性はリスクがあるのに診断されないケースが多く存在する。
今回は、本当は腹囲は 何cm ぐらいから気をつけるべきなのか、調べた研究を紹介する。
前向き研究に基く日本人のメタボリックシンドロームの修正案 丨 久山町研究
Proposed Criteria for Metabolic Syndrome in Japanese Based on Prospective Evidence
Yasufumi Doi et al.
Stroke. 2009 Apr;40(4):1187-94.
Proposed Criteria for Metabolic Syndrome in Japanese Based on Prospective Evidence
Background and Purpose— The current criteria of metabolic syndrome (MetS) are not based on evidence derived from prospective studies on cardiovascular disease (CVD). Methods— In a 14-year follow-up s
正確な病気の発症率 に基づく メタボ 診断基準 の 修正案
目的
メタボリックシンドロームの現在の基準は、病気を適切に予測していない
心血管病を予測する、より適切な定義を導き出す
対象
- 久山町に在住する 40歳以上の成人 2,452人
- 男性 1,050 人、女性 1,402 人
- 心血管病歴(冠動脈心疾患や脳卒中など)の無い人
方法
- 毎年健診で健康状態を確認
- 健診を受けない被験者や市外に転居した人は郵送または電話で確認
現在 の メタボリックシンドローム の 診断基準
メタボリックシンドロームの修正案 | |
---|---|
腹部肥満(必須) | 腹囲 男性 85cm 以上 女性 90cm 以上 |
※ 脂質異常 | 中性脂肪 150 以上 or HDLコレステロール 50 未満 |
※ 血圧高値 | 130 / 85 以上 |
※ 空腹時血糖 | 110 以上 |
本研究 の メタボリックシンドローム の 修正案
メタボリックシンドロームの修正案 | |
---|---|
腹部肥満(必須) | 腹囲 男性 90cm 以上 女性 80cm 以上 |
※ 脂質異常 | 中性脂肪 150 以上 or HDLコレステロール 50 未満 |
※ 血圧高値 | 130 / 85 以上 |
※ 空腹時血糖 | 110 以上 |
さらに複数のメタボリックシンドロームの診断基準を比較して、最適なものを検討
- NCEP-ATPⅢ(米国) ー 2001年
- NCEP-ATPⅢの修正版(米国) ー 2004年
- 国際糖尿病連合 (IDF)のアジア人向け診断基準 ー 2005年
エンドポイント 下記の合計
- 脳梗塞
- 冠動脈心疾患
- 心筋梗塞
- 急性疾患発症1時間以内の心臓突然死
- 冠動脈カテーテル治療
- 心臓バイパス手術
結果
研究期間は 1988年12月 ~ 2002年11月
観察期間の中央値は 24年
脱落者は1名のみ、追跡率は 99.9% 以上
虚血性脳卒中 145 件(男性 66 人、女性 79 人)
冠動脈心疾患 125 件(男性 78 人、女性 47 人)発生
メタボリックシンドロームと診断される人の割合

基準 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
NCEP-ATPⅢ | 16.8 % | 22.3 % |
NCEP-ATPⅢの修正版 | 21.6 % | 31.3 % |
IDF のアジア人向け基準 | 13.4 % | 34.5 % |
現在の日本の基準 | 21.4 % | 8.1 % |
本論文での修正案 | 10.0 % | 18.4 % |
メタボリックシンドロームと診断される人の割合は、現在の基準では男性が多い
修正案と海外の基準では女性の方が多かった
メタボリックシンドローム と 心血管病のリスク

心血管病のリスク | 男性 | 女性 |
---|---|---|
現在の基準 | 関連なし | 1.8 倍 |
修正案 | 2.49 倍 | 2.27 倍 |
現在の日本の基準では、メタボリックシンドロームは女性では心血管病との関連が認められたが、男性では認めなかった
腹囲を修正した診断基準では、男女ともに強い関連 が認められた
糖尿病 と 高血圧 との比較

心血管病のリスク | 脳梗塞 | 冠動脈心疾患 |
---|---|---|
糖尿病 のみ | 0.77 倍 | 1.16 倍 |
高血圧 のみ | 1.36 倍 | 1.39 倍 |
メタボ のみ | 1.65 倍 | 2.01 倍 |
メタボ + 高血圧 | 3.17 倍 | 3.45 倍 |
メタボ + 糖尿病 | 5.35 倍 | 5.13 倍 |
修正案では、メタボリックシンドローム は 糖尿病 や 高血圧 よりも強いリスク因子 だった
糖尿病や高血圧があると、さらにリスクが高かった
結論
腹囲の最適な基準値は 男性 90cm、女性 80cm
この修正された診断基準は、日本人の心血管病をよりよく予測する
筆者の意見
約 2,500人 を 14 年間 追跡して得られたデータで、追跡率も高く信頼性が高い。
実際に気をつけるべき腹囲は、男性 90cm、女性 80cm だった。この基準だと、男性の 10%、女性の 18.5% がメタボリックシンドロームと診断される。
この修正案は病気の予測という面で、とても優れていた、
診断基準は修正されなかった
しかし、診断基準は実際には修正されることはなかった。理由はいくつか考えられる。
合同の診断基準
メタボリックシンドロームの診断基準は、8学会の合同という形で設定されている。正しい基準を用いるべきか、修正を避けるべきかは学会によって温度差がある。
既に特定健診が始まっていた
また、今回の論文は 2009年 に発表されたが、その前年の 2008年 から既に特定健診と特定保健指導が始まっていた。
修正すると、短期的ではあるが現場に混乱が生じる。
特定健診は厚生労働省をはじめ関係省庁が折衝し、法整備をした上で開始されている。
再度の法改正には大きな労力が必要になる。その手間が修正の大きな障害になったのだろうと書き手は考えている。
現在でも議論されている
メタボリックシンドロームの診断基準の改正は、現在でも議論されている。
もし改正されるときは、今回紹介した論文も含めて、その根拠について広く検討が行われることを期待している。
現在の値が意味すること
現在のメタボリックシンドロームの診断基準は、あまり病気と関係していない。
心血管病は女性より男性に多いので、男性に厳しい基準を用いることは一理ある。しかし現在の 男性 85cm、女性 90cm という値に根拠はない。
結果として、特定健診でメタボリックシンドロームと診断された女性はかなり注意が必要、男性は何とも言えない ということになっている。
女性は 腹囲 80cm以上 に気をつける
特定健診は、無料で医療へのアクセスを提供する点で良い制度といえる。
ただし上記のように女性にかなり緩い基準 なので、女性で腹囲が 80cm 以上だった方は、是非とも減量を意識するきっかけにしていただきたい。
研究面での問題
診断基準が病気と関係ないことは、研究にとっても大きなマイナスになった。
メタボリックシンドロームを改善することで、病気を予防できるというデータが得られず、日本人の肥満について新しい予防法や治療の開発が進まないのである。
これ以降、日本で行われるメタボリックシンドロームの研究では、再び海外の基準が使用されるようになった。
腹囲を修正すれば、日本の基準の方がより日本人に適していたため、そこは残念に思う。
次回はメタボリックシンドロームとがんとの関連を調べた研究を紹介する。